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しめやかにうち香りて(美女丸×マリナ)


お、終わったわ…。あたしだってやれば出来るのよ!
久しぶりの少女マンガ、読み切りだけど本誌に載せてもらえることになって、あたしは必死になって原稿をやり遂げた。
昔ほどジャンルに拘りはなくなって、どんな原稿でも描くのは遣り甲斐がある。細々とでも食い繋いでいけるのが嬉しい。
もちろん、婚約者として美女丸の家に居させてもらってるから、というのも分かってる。当主として仕事をしている美女丸の背中に追いつくのはまだまだだけど、雑草魂であたしはへこたれたりしない。
「ふぁぁ…。眠い…」
原稿も送ったし、蘭子さんがいつもより多めに用意してくれたおやつも食べた。
ちょっとだけ、ちょっと…だけ…。


…なんでこいつはこんな所で寝てるんだ。
仕事で何日か家を空けていたので、今日は早めに上がり帰ってみると、居間の机の下で小さくなって眠るマリナがいた。
頬に手を当てるとヒヤッとしていて、このままでは風邪をひいてしまう。
「蘭子、悪いがマリナの部屋に布団を敷いてくれ」
「あんれま、さっきやっとお部屋から出てらっしゃったんですがね」
マリナを横抱きにして部屋まで運ぶと、インクの匂いがする。
不器用なオレには昔みたいに手伝わせなくなったが、この匂いがうちに漂うのが当たり前の日常になったのは夢ではないか、と思うときがある。
腕の中の柔らかな温もりをいつも感じていられるのも。
布団に下ろし起き上がろうとしたら、いつの間にかオレの左腕の袖を小さな手が握りしめていて、離そうとしない。
「しょうがないな」
やれやれと思いながら、マリナの横に滑り込むと、気持ちよさそうに眠る吐息に釣られオレも目を瞑った。

…なんで美女丸の顔がこんなに近くにあるのかしら。
パッと目を開けたら、端正な顔をいつもよりも心持ち無防備にして眠る美女丸がいた。
あら嫌だ、あたし、いつの間にかお布団に運んでもらってたのね。
お腹もすいたし起き上がろうと思ったら、長い腕に腰を抱かれていて離れようとしない。
「お腹の音鳴ったりしたら、起きるかしら…?」
そうなるまでこのままでいてもいいかな、と目の前の、少し皺の寄った眉間をなぞってみた。
「お帰りなさい、美女丸」
慣れてしまった、美女丸の香りに包まれて、安心してまた眠った。



Fin
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ちょっとそこまで (美女丸×マリナ)

「え、マリナちゃん?さっき会ったよぉ。んーとね、あの木の枝の所にうちのユズが登って降りられなくなっちゃったの。まだ子猫だから。マリナちゃん、それ見て木登りしようとして滑り落ちてお尻打っちゃったから、ボクが登って下でマリナちゃんにユズを受け取ってもらったの。え、ボクえらい?えへへ、弾上の若様ありがとお。でもマリナちゃんも助けてくれたから、一緒に遠足の見学でもらったポテチ食べたの。あたし、散歩の途中だからってそのまま歩いて行っちゃったよ」

「あらまぁ、弾上の若様、こんにちは。あらやだよ、こんな婆に丁寧な挨拶してくれて。ああ、あのちんまいマリナちゃんなら、うちのピーちゃんに持ってたポテトチップス砕いてくれたねぇ。ピーちゃんと一緒に食べようとするから、買ってきた豆大福あげたら、頬張ったほっぺたが大福みたいになって笑っちゃったよ。え、餌付けするなって?ついついねぇ、あらやだ、眉間にそんなにシワ寄せちゃぁいい男が台無しだよ」

「おっ、弾上の若さん、またいい着物着てるねぇ。マリナを見なかったかって?ああ、あの娘なら、うちの婆ちゃんと縁側座って大福食ってたぜ。爺ちゃんの見舞いに行こうとする婆ちゃんに付いて行ってくれるって言って病院へ向かったけど。…あれ、そういえば今日って大事な日じゃなかったのかい?」

「うちのと一緒に見舞いに来てくれたあの子かい?花瓶の水を替えに行ってくれてるよ。見てくれは素朴な子だけど、あの娘は根性あるねぇ。大きい花瓶だから危ないっつってんのに行っちまったよ。…ちょっと若さん、見てきてやり…あ、行った」

「あ、あ、あ、…っび、美女丸!?あんたちょうどいい所に来てくれたわっ。もう少しで花瓶割るところだったわよ。
…ちょっと美女丸、なんでそんな今にも血管切れそうな顔してんの?お医者さんに診てもらう?今何時かわかってるのかって?始まるのは11時からだったで…、え、10時からだっけ?もううちの家族も来て、いっいやあああ担ぎ上げないで食べたもの出るもったいない!」
「悪い、佐藤さん。こいつ連れて帰るから、帰りタクシーに乗ってくれ。もう手配してあるから」
「あたしのことは心配しないでいいから、早く帰っておやり。祝いのときにすまなかったね」

「弾上の若さんに悪いことしちまったねぇ。これから結納だってのに、マリナちゃんったら大丈夫って言い張って付いて来てくれたけど…」

「美女丸、ごめんってばー。緊張をほぐすための散歩だったのよ…ぎゃあ痛い痛いせっかくのセットが乱れるじゃないのよ…ごめんなさいもうしゃべりません」
「何もかも済んだら、覚えておけよ。手打ちにしてやる」
「ああ、もうすぐ着きますよ。お二人とも、本日はおめでとうございます」
「ありがとうございますー。ほら美女丸もそんなにブスッとしてないでさぁ。せっかくお祝い言ってもらえたんだし、間に合ったんだしいいじゃないイテテテ」
「もうしゃべりませんって言った口はこれか…。塞いでやる」
「イーヤーこんな所で何すんのよぉぉ…ムグッ!」


「何にせよ、幸せそうで何よりだね…。お代はいいですよ、弾上の若さん頑張ってくださいね」


Fin


共に偲ぶ (美女丸×マリナ)

「何よ、ずるいじゃない!あたしにもちょうだい!」
あたしに背中を向けて縁側でひとりでいる美女丸にそう声を掛けると、冷酒を持った手を床に置き溜息を吐く。
「おまえな…、久しぶりに帰ってきて言うことがそれか?」
「ただいまー。取材終わったので帰ってきたの。だから労ってあたしにもお酒ちょうだい!」
「そんな紋切型の挨拶はいらん」
「まあまあ、いいじゃないの」
持っていた荷物を置いて、座っている美女丸の膝の上に乗ってやると、やれやれという感じで背中を抱き込まれる。
「あんたも大人になったわよね。昔ならそのまま立ってあたしを落としてたでしょ?」
「おまえと一緒いるようになって諦めというのも大切かもしれんと思うようになってな」
「さりげなく貶されてるわよね、気にしないけど」
1つしかないお猪口を、飲み干してはまた満たし、お互いに飲みながら静かに照らす月を見上げる。
「うふふーん、月が二重に見えるわよぉ」
「これは度数がきついんだ。これでもう止めとけ」
顎に手を回され、口移しに流れ込んできたお酒はとても美味しくて、酔いが急に回ってきた。
「1人で、亡くなった人たちを偲ばないでよ」
あんたのそんな背中、見てたくないのに。
「おまえが置いて行った不細工な茄子ときゅうりの精霊馬ならそこにあるぞ」
「あれ、なかなか上手く立たなくて苦労したのよ」
「割り箸差すだけだろ」
「不器用大魔王の美女丸に言われたくない」
「今のこの家には、おまえがいる痕跡があちらこちらにあるからな。1人で偲んでたつもりはない。第一今、おまえはオレの腕の中にいるだろう」
「明日、あたしもお墓参り行くわ。遅くなっちゃったけど」
「帰り、新しく出来た和菓子屋に寄るか。あんみつが絶品だそうだ」
「行きたーい」

甘いものの話聞いたから食べたくなった、と騒ぐあたしに甘い冷酒を載せた舌があたしの口を塞ぐ。
背中に感じる美女丸の体温が心地よくて、あたしは目を閉じた。


Fin

おまえだけだ (美女丸×マリナ) ~長い春・美女丸~

こいつを、ずっと見てきたのに。
本人はわかっているのか、いないのか。困ったものだ。
オレの胸の中で眠るマリナを見て、ため息を吐く。

マリナが和矢と別れてオレの所へ泣きに来たとき。オレは見守るだけだった。
弱みに付け込むことはしたくなかった。こいつはそのときからオレを心に入れてくれたと言う。
それから、こいつが仕事を路線変更したら軌道に乗り、オレも当主としての責務や他の仕事で忙しく、ちょくちょくは会えなかったが、連絡は取っていた。こいつの気持ちが落ち着くまであまり会えなかった。オレが何をするか分からず、自分を抑える自信がなかったからだ。

「そっちに行くからね!」とこいつから連絡があり、久しぶりに会ったら驚いた。少し背が伸び赤のちょんちょりんを取り、眼鏡はかけたままだが大きな瞳は澄んでいて、少し大人びてきていた。
アパートが壊されるのでこちらで住む家を探したいと言う。・・・変な編集者が近くにいるようなので放っては置けない。
うまく言い含めうちに住まわす事にした。

あの編集者はこいつに惚れている。それもなかなか諦めないタイプだろう。いろいろ宣戦布告をしてくるのが癇に障る。
こいつは気が付いていないようだったが、編集者の本性を垣間見たときは怯えていたようだ。

夜桜が散るその下で、こいつは言った。
「あなたしかいないの・・・。」
もう待たなくていいのか。もう、・・・我慢しなくてもいいのか。
その夜・・・オレは獣になった。
こいつの体に溺れた。
小さい身体、感じやすい耳、緩やかな胸、熱い吐息、濡れて見つめる瞳。
もう、離してやることは出来ない。


すぐ・・・婚約した。身も心も何もかもオレのものするために。
その話が広がると、オレの結婚話に怯んだ仕事関係の女がいきなりキスしてきた。よりによってそれをこいつに見られてしまった。
「美女丸のバカッ・・!」
急いで追いかけたが見失い、探していたら道行く人々がこいつの行先を教えてくれた。こいつはいろいろ歩き回り老若男女にコミニュケーションを取っていたためすっかりここに馴染んでいた。それで助かった。
いざ見つけてみたら草むらから滑り落ち、擦り傷だらけの泥だらけ、左足首まで痛めていたからだ。
なのにこいつはこんなことを言う。
「あたしよりお似合いだったっ、あたしなんかのどこがいいのよぉっ・・・!」
オレは我慢できなかった。どれだけオレが長い間こいつを見ていたと思ってるんだっ・・・!

家に帰り風呂場に連れ込み、共にシャワーを浴びながらオレは怒鳴った。 
「あたしなんかって言うな!」
オレがそう言うと、こいつは涙を浮かべてオレを見た。
「他の人にキスさせないで、あたしだけ。お願い・・・。」
そんなこと言うな。
これ以上オレを狂わせてどうするんだ。

足を痛めているこいつの負担を気にしつつ、離してやれなかった。
オレはいつまでも、こいつに翻弄させられるのかもしれない。
眠るこいつの耳元で囁いた。
「おまえだけだ、マリナ。」


Fin




あなただけを (美女丸×マリナ) ~続・長い春~

うっうっうっ、ここってどこなのかしら・・・。
あたしは至る所擦り傷、土埃だらけになりながら、途方にくれていた。


事の起こりは、美女丸が仕事で郊外に出来た絵画ギャラリーに出掛けたのを、たまたま近くにいたあたしが美女丸をびっくりさせようとして迎えに行ったのが始まりだった。
案内されて一番奥の部屋の扉を開けたら・・・美女丸が女の人に、キス、されていた。

一瞬、頭が真っ白になった後。つい、つい思わず。
スタスタと美女丸の傍まで歩いていき、女の人を押しのけ、美女丸の横顔を叩いていた!
「美女丸のバカーッッ!!」
「マリナッ!」

あたしはそのまま美女丸の元から走り去ってしまった。
どんな風に走って行ったのか覚えてないけど、いろんな人にぶつかりながら、いつの間にか草木が茂る野原に来ていた。ハアハアと息切れが激しくなり、その場でしゃがみ込んだ。
頭の中でさっきの場面が思い出される。・・・くやしいけど、お似合いだった。子どもみたいなあたしなんかより、よっぽど。
でも、美女丸は・・・。あたしを好きだと言ってくれた。いっぱい・・愛してくれた。
胸の中はぐるぐるするけれど、美女丸を信じたい。
涙ぐんだ目を開き顔を上げ、立ち上がろうとして・・・そこが背の高い草で足元が見えなかったから。
足を取られ、切り立った崖下に滑り落ちてしまった。

「ううっ、あちこちが痛い・・。あ、でもそんなに落ちたわけじゃないや。っつ、いたっ!」
ゆっくり起き上がり、ふり仰げばさっきの位置が見えるくらいにしか滑り落ちてないのを確認してほっとしたら、左足首にズキッと痛みが走った。少し、ひねってしまったようだ。
あたしはまたその場に座り、ちょっと落ち着くまでそうしていることにした。
ほんと、ここってどこなのかしら・・・。
誰もあたしがここにいることなんて知らないんだから、自力でなんとかしなくちゃ!
あたしは痛む左足をかばいながら少しずつ上に登って行った。
登っては少し落ちの繰り返しで、気が付いたら大分夕日が暮れかけていた。
そしてやっと元の所へ付きそうになったとき。
「きゃあっ・・!」
誰かがあたしの右手首を掴みぐいっと引き上げてくれた!
「マリナ・・!何をしているっ・・!」
美女丸!何で、ここに・・・?
美女丸がその精悍な頬をくいっと上げ、強い眼差しであたしを見据えてきた。
「マリナ、おまえはうちに来てからいろいろな人達と交流を深めていただろう。おまえの行先は、道行く皆が教えてくれたのさ。おまえはオレの婚約者ということで顔を覚えられてるのもあるがな。・・・さっきの女はそれが妬ましくてオレにあんなことをしたらしい。」
あたしはカッとして美女丸を見上げた。
「でも、あたしなんかより、ずっとっ・・お似合いだった!なんで、なんで美女丸、あたしなんかがいいのっ・・!痛っ!」
つい叫んでしまったら、痛んだ足に力が入ってしまったようだ。
美女丸は一目であたしの状態が解ったらしく、スッと瞳を細めるとあたしを抱き上げた。
「美女丸っ!」
「マリナ、話はあとだ。・・・帰るぞ。」
有無を言わせぬ口調であたしを抱き上げたまま歩き、近くに停車していた車に乗って家に帰った。その間あたしたちは無言だった。

家に帰ると蘭子さんはもう居なくなっていて、あたしたちだけだった。
美女丸はそのままお風呂にあたしを連れて行った。
当然出ていくものと思っていたあたしは、美女丸が一糸纏わぬ姿になったのにびっくりした!
ちょ、ちょっとまさかぁっ!
「美女丸、何す・・っ、きゃああっ。」
美女丸はあたしを裸にし、抱きかかえお風呂場に入っていった。シャワーを出し、あたしの足を気遣いながらあたしを向い合せにして座り込み、あたしを広く逞しい胸に抱きしめ、硬く締まった長い腕で囲ってしまった。
「あたしなんかって言うな!」
美女丸が激昂した声を出し力強く抱きしめたので、あたしはびくっとした。
「あんな女に不安になるな!オレには、おまえしかいないって言っただろう!」
あたしは、迫りくる思いに涙を浮かべ、ぎゅっと美女丸の厚く硬い胸にすがった。
「他の人に、キスなんてさせないで・・。あたしだけ。お願い・・・。」
「マリナ、・・マリナ!」
美女丸が少しあたしを離し、あたしを強い瞳で射抜いて・・深いキスをした。


「ああっ、美女丸っ。もうっ・・ダメ、あっ、んっ・・!」
降りしきるシャワーの音の中で、あたしの声が響く。
痛んだ足に負担がかからないようあたしを上に乗せて、座った美女丸に翻弄される。
「美女丸、美女丸っ・・。」
「マリナっ・・。」
二人だけの時間は・・・長く続いた。
薄く開いた窓から垣間見える月だけが、そんな二人を見ていた。



Fin.
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