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在りし日の君に (響谷兄妹)

「ね、お兄ちゃま、どこに行くの?」
「薫、兄さんの秘密の場所に連れていってあげる。だからもう少し歩けるね?」
2人だけで行きたい場所なので車は出してもらわなかったため、薫は戸惑っていたようだけれど、秘密の場所という言葉に嬉しそうににっこりと笑って僕と繋いだ手をぎゅっと握りしめてきた。


7歳の僕の妹、薫。
可愛い僕の妹。
薫が喜んでくれるなら、僕はなんでもしてしまうかもしれない。


山手の奥の小高い丘が目当ての場所だ。
「わぁっ、きれい・・・。桜のお花がいっぱいだね!」
この丘には2本の大きな桜があり、静かな風に吹かれて桜の花びらが大きく舞っている。
「この間偶然見つけたんだ。この時間帯はあまり人も来ないし、街が一望出来るだろう。」
持ってきた籐籠からシートを取り出し下に敷き、サンドイッチと薫お気に入りの林檎ジュースを取り出すと、薫の顔が笑顔でいっぱいになった。
「これ、もしかしてお兄ちゃまの手作り?だってサキさんが入れるきゅうりが入ってないよ?」
サンドイッチの中身を見て僕を見上げる薫の瞳はきらきらしていて、肩下にかかる柔らかい癖髪に桜の花びらが付いていく。
僕は薫の膝にブランケットを載せながら、クスクスと笑う。
「サキさんを悲しませたくなくて苦手なきゅうりを食べている薫を知っているからね、僕が作ってみたんだ。さ、お食べ。」
それなりに歩いたのでお腹を空かせたのだろう薫は、ぱくぱくとサンドイッチを食べていく。
「おいしい、お兄ちゃまも一緒に食べようよ。はい、あーんして。」
薫が僕の口元に持ってきたサンドイッチを一口齧り、そのまま薫の手からサンドイッチを受け取る。
「ね、また来ようね!次はね、マカロンも持ってこようよ。甘いのも食べたいから。」
並んで座る僕の足元にもブランケットを広げてきた薫が、両手を顔の前で合わせ眼下に広がる街並みを見ながら一生懸命話しかけてくる。
ひらひらと桜の花びらが広がる場所で、僕らは静かに佇んでいた。






寒く冷える監獄の中、目を覚ますとしんしんとした空気に満ち溢れている。
自分の犯した罪が頭から離れることは決してない。
ただ、夢で見る昔の思い出がかいま見えたとき、胸に暖かい灯りがほのかに灯る。
薫のことを思うとき、僕が僕であると実感する。
在りし日の君を想うとき、僕は僕であると思えるんだ。






Fin




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Category: 響谷兄妹