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言の葉を紡ぐ (シャルル×マリナ)

夏も終わりかけのアルディ家の広い庭は日が暮れかけていて、なんだか寂しげ。
ゆるく吹き抜ける風も少し冷たくて、あたしは自分をギュッと抱きしめる。

遠くに見える夕日を、まさかこんなところで見ることになるとは思ってなかったわ…。

ざらざらと肌触りが良くない木の皮に頭を凭れ掛けさせ下を見ると、落ちたら打撲で済まないわよね、と思われる高さ。
そう、ここは鬱蒼と茂った枝と葉に覆われた木の上。

結構枝はあったから登れたのよ、あたしでも!
でもいざ下りようと思ったら上手く下りれなかったの…。
いくら頭に血が上っていたとはいえ、なんで木になんて登っちゃったのかしら。
ほら、あれ、目の前の木は登らずにいられない、とか言うじゃない?…あれは山か。
「愛する君のために」でガイがあたしを抱えて木に登ったことあったわね。あのときは下りるときもガイに抱き込まれて下ろしてもらったから良かったけど。
ぼぉっと遠くを見つめ現実逃避しているあたしの耳に聞こえた、聞き慣れたテノールの声。

「もう気は済んだ?」
下からガサガサという音がしたかと思うと、いともたやすく木を登ってきたシャルルがあたしの隣に座る。
「なんであたしがここにいるのが分かったの?」
「我がアルディ邸にいて、オレに分からないことなんてないよ」
「…あたし、怒ってるのよ?だって、せっかくフランス語の勉強にやる気出してるのにシャルルが止めるんだもの」
家庭教師のジャンと結構カリキュラムが進んでるのを喜んでいたらシャルルが止めるものだから、ついカーッとなっちゃったんだけど…あたしってこんなキャラだったかしら?
なんでムキになってるのか自分でも分からなくなってきて俯いて唸ってると、シャルルがあたしの方に身を屈めそっとキスしてきた。
思いがけず柔らかく触れる唇の感触に呆然としていると、小さく溜息を吐いたシャルルが離れあたしの額に手を当てた。
「マリナ、熱が出てる。自分でおかしいと思わなかったの?」
…うーん、そういえば、なんか頭…グルグルするかも…。
「こんな所でグズグズしてないでさっさと下りるぞ」
ひょい、とあたしを肩に担いだシャルルがスルスルと木を下りて、地面にシャルルの足が付いたのを感じた途端、あたしは意識を失った。


「…まさか知恵熱になるなんて思わなかったわ」
目が覚めたらフカフカのベッドに寝かされていて、傍にシャルルが座ってくれてたのが何だか嬉しかった。
「正しくは『心因性発熱』というけれどね。症状は体温上昇・倦怠感・集中力低下・イライラなどだ。さっき部屋に入ったとき妙に顔が赤いから勉強を止めてみればムキになって突っかかってきただろう?原因はそれだ」

シャルルは寝ているあたしの前髪を掻き上げ、額にキスをする。
「焦らないでいい。マリナのペースでいいんだ」
「…怒ってないの?」
「オレと一緒にいる為にしていることにどうしてオレが怒る必要がある?…ただし、もう木に登るのはダメだ。危ないし体が冷えてしまう」
「熱のせいよ、ちょっとおかしかったのよ…。やだわ、これぐらいで熱出すなんて年とったのかしら?」
「鬼の霍乱というやつかな?君の奇行はいつものことだが」
「なんか小馬鹿にされてるのはわかるわ。屈辱よ」
「おやおや、オレは君と他愛のない話をするのが好きなだけだよ」
「あたしだってそうよ?好きじゃなかったら熱出るまでフランス語の勉強なんてやらないわね」

口をとがらせてムクれてそう言ってやったのに、シャルルはふわりと微笑むから。
あたしは何をしても、ここにいていいのだと思えるの。



Fin
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白薔薇を君に (シャルル×マリナ)

「はぁ~美味しい。念願のリンゴ食べれて嬉しいわ」
久しぶりの自分の部屋のベッドに寄りかかりシャクシャクと林檎を食べるあたしに、ベッド脇の椅子に座っていたシャルルが溜め息を吐く。
「風邪とはいえ40度を超す熱が出たあとにすぐ食欲が出てくるあたり、さすがマリナだと思うよ。つくづくその身体を解剖したい」
「ちょっと、冗談に聞こえないわよ!いつぞやの解剖承諾書にサインを強要してきたときと同じ顔してるから!」
あれからもう長い年月が経っているのに、もうやだこの鑑定医!恋人までそんな瞳で見ないで!
「それよりもう少し何か食べたいのよ。口当たりのいいものないかしら?」
さすがにまだ普通の食事を要求する体調ではないけど(シャルルがまず許さないし)、でも何か欲しいわ…。
「しょうがないな。じゃあ桃を持ってこさせよう」
内線電話でシャルルに告げられたメイドさんが皮を剥いて一口大に切ってくれた桃を持ってきてくれたので食べると、桃の甘さが体に染みわたっていくよう。
「今はそれだけにしておいで。このまま回復していくようなら消化のいいものから始めていくから」
「はーい」
ここで刃向うと食事抜きにされそうだから素直に返事しておくわ。くわばらくわばら。
「桃かぁ…。確か薫が好きなのよね。久しぶりに逢いたいわ」
憂いを帯びた三白眼の彼女を思い出すと、自然にあの人の姿も浮かぶ。
「薫の兄上が死んだら風にかえる、って書いた手紙のフレーズがすごく印象的でね、今でも覚えてるわ。そういえばアルディ家では薔薇に還るんだったわよね?」
「ああ、そうだ」
「じゃああたしもそうなるのかしら?薔薇って柄じゃない気がするから怒られそうよねー」
何気なくあたしがそう言うと、一瞬目を瞠ったシャルルが次には微笑みを浮かべてあたしの手からフォークを取り上げ、桃を食べさせてくれた。
首を傾げつつ桃を食べていると、シャルルは傍にあった花瓶から白薔薇を取り出してあたしに差し出してきた。
「何?どうしたの?」
「…一緒にここで過ごしてくれるんだろ?プロポーズありがとう、マリナちゃん?」

白薔薇の花言葉
『私はあなたに相応しい』


Fin

呼ぶ声 (シャルル×マリナ)

ふぅ、やっと原稿が上がったわっ!
あたしはトントンと描き上がったばかりの原稿を揃えると、日本へ送る準備をした。
この時代に未だ仕事のやり方がアナログなあたしだけど、これが性に合ってるのよね。

この間パリの朝市を取材したときのことを原稿にしたのだけれど、美味しいものがいっぱいあって楽しかったわぁ。
食い意地の張ったあたしの描くエッセイまんがは結構評判が良くて、食い繋げる程度に仕事が回ってくるのはホントにありがたいわ。

アルディ家にいる間は食べ物の心配はしなくてもいいんだけどね。食べる量は目を光らされてるけど。
え、誰にかって?聞かないでそんなこと。

冷めた紅茶で喉を潤おしていると、コンコンとノックがなる。


「マリナ、もうそろそろ仕事は終わりなんだろう?戻るぞ。」
珍しく早めに帰ってきたシャルルが、ネクタイ緩めながらあたしに宛がわれた仕事部屋に入ってきた。

「おかえり、シャルル!原稿上げたらお腹すいちゃったわ!」
「君にしては珍しく夕食がまだのようだね。明日雨でも降るんじゃないのか。」
「失礼ねっあたしだって仕事に集中してたらたまにはそんな事もっ・・・もが!」
ぶーぶー言い立てるあたしの口に、シャルルが何かを押し込んできた。
口に入れたものは食べてしまう習性のあたしは、ついもごもごと口を動かしてしまう。

バターとアーモンドの合わさった甘いホロホロとした食感。
「美味しい~、フィナンシェだ!」
「君の腹の虫を却って刺激しそうだけど、少し甘いものが欲しいだろう?根の詰め過ぎは良くない。」

もうひとつフィナンシェを口に持ってこようとしたシャルルの手からそれを奪い、パカッと半分に割ってひとつはあたしの口に、もうひとつはぴょんと飛び上がってシャルルの口に入れる。

目を瞠ったシャルルに、あたしはにっこり笑って言ってやった。
「あんただって根の詰め過ぎよ、ちょっと顔色悪いわよ?そういうときはご飯食べてお風呂入ってさっさと寝るの!さ、早くあんたの・・・あたしたちの部屋に戻りましょ。」

実はあたしは、自分の部屋というのを用意してもらってない。
仕事部屋は要望して用意してもらったけど、何せここに連れて来られたときは何も持ってなかったし(再会編参照)、寝室はシャルルと一緒にされちゃったから、そのままシャルルの部屋に居ついてしまった。
プライベートがなくて息が詰まるかというと、そうでもない。だってシャルルがここにいる時間が仕事で少ないし、いても発作を起こして考え込んでることもしょっちゅうなのでこっそりその姿をスケッチしてるくらいよ。


・・・なんだか色々言ってるけど、ホントはね、心配なのよ。放っておくとシャルルって無理ばっかりするしさ。不思議とあたしと一緒にいてぎゃあぎゃあ言ってると、不意にシャルルはホッとしたような顔をするの。


「おっなかすいたー、シャルル、行こう?」
あたしがててっと小走りになって先に廊下を走って行こうとすると後ろから、

「マリナ」

あたしを呼ぶ、シャルルのテノールの声が静かに響く。
くいっと手を引かれ、抱き上げられシャルルの形の良い薄い唇がそっとあたしのそれに触れる。
甘い、同じ味がする。

「・・・帰ってきたと実感出来るね。」

そう呟く、シャルルの声音は口中と同じく甘くて。
まるで番いの雄が雌に求愛するときのよう。

「お帰りのキスがまだだったものね。」
それにね、とシャルルの耳元で囁く。

「もっと呼んで、あたしのことを。」

シャルルの呼ぶ声が、ここにいる証。
あたしも呼ぶわ、あなたのことを。



Fin

雪代に映る月 (シャルル×マリナ)

アルディ家のコックの話
「あ、またマリナさんこちらにいらしたのですか?つまみ食いばかりしているとシャルル様のお怒りを買ってしまいますよ?ああこれは新作のケーキを試して作ってみたのですが…。しょうがないですね、少しだけですよ?
美味しいですか、それは良かったです。・・・もうその辺りでお止め下さい、夕食後のデザートなしでよろしいのですか?さ、このキャラメルを差し上げましょうね。
シャルル様もマリナさんがこちらにいらしてから、よく食事を召しあがってくださるようになりました。以前はお忙しさにかまけてお酒で誤魔化したりなどなさっていて、陰ながら心配しておりました。
これからもマリナさんがお傍にいて、シャルル様にちゃんと食事を召しあがるようにお伝えくださいね?こちらでのつまみ食いは内緒にしてあげますから。」

アルディ家のメイドの話
「ええ、こちらはシャルル様のお好きなバラです。・・・は、マリナさんが持って行ってくださるのですか?では申し訳ありませんが、シャルル様の書斎の窓辺に置いていただけますか。
このキャンディ、美味しくて最近のお気に入りなので、お礼にマリナさんにも差し上げますね。シャルル様には内緒ですよ?
シャルル様がマリナさんとお過ごしになるようになって、このお屋敷の空気が大分柔らかくなったように思います。
以前はどことなく氷のように冷え冷えとしたところがありまして、私たちは落ち着かなくお仕事させていただいていたこともございます。
・・・詮なきことを申しました、お忘れくださいませ。
ああでもマリナさん、シャルル様の寝室のベッドメイクは私たちの仕事ですので、乱れていてもお気になさらずそのままにしておいてくださいませ。何も思っておりませんので。
きゃあ、マリナさん、壁に打ったお顔大丈夫ですか!?あら、打った所以外もお顔が赤いですね?」

アルディ家の庭師の話
「ありゃ、またこっちに来たのかい?土で汚れちまっても知らないよ?ああそうだよ、ここは今造園しているんだ。シャルル様の指示でね。
なんでもここに東屋も造って、一緒にゆっくり過ごしたいお人がいるそうだ。絵を描く人らしいから、一番この庭が良く見える場所を与えてさしあげたいんだろうよ。
ところでお嬢ちゃん、これおじさんの取って置きのクッキーなんだけど食うかい?なんだかあんた見てるとリスを思い出すねぇ…。あ、そのパンパンのポケットのせいかねぇ。」

アルディ家のSPの話
「・・・シャルル様がお戻りになられたようですよ。」


「シャルル、お出迎え出来なくてごめっ・・・んっ!」
「・・・ただいま、マリナ。口の中が甘い味がするけど・・。またつまみ食いか?」
「違うわよ!い、いきなりキスなんてしないでよ、びっくりするじゃないの?」
「君から甘い匂いがしたからね。一番わかりやすい方法だろう?・・・なんだ、このポケットは・・。」
「ぎゃーっ、シャルル、取っちゃダメだからねっ!これはあたしの頬袋なんだから!」
「君はいつの間にげっ歯類になったんだ、オレはこんな大きなリスはいらん!」
「何よっそんなこと言うなら耳元でボリボリ木の実でも齧ってやるーっ。」
「それより君は、先にオレにしないといけないことがあるのではないの?」
ぐっと詰まったあたしは、渋々シャルルの頬に唇を寄せた。
「・・・おかえりなさい、シャルル。」
同じようにシャルルの唇を頬に感じ、静かな声が耳元に響く。
「ただいま、マリナ。」
お互いが帰ってきたときに、顔を負わせ向かい合うこと。
あたしたちが一緒にいるようになって、約束したこと。

こうして一緒に過ごすまでのシャルルの世界がどうだったかは、微かに伝え聞くことでしかわからない。
でも、彼の何かが柔らかくなったことはわかるわ。
「マリナが傍にいると、調子が狂うよ。色々な意味で。」
・・・そりゃあ悪うございました。
「でも、悪くないね。」


アルディ家のある秘書の話
「やっと、雪解け水に映る月を見たような心地ですわ。それは、・・・マリナさんにしか出来ないことなのです。」



Fin



意趣返し (シャルル×マリナ)

あたしはトコトコと、ミシェルのいる別館に向かっていた。
なんだかよくわからないけど、「こちらに来るように。」とメッセージカードが届いていて、マンガの資料をミシェルにお願いしているあたしは逆らえるはずもなく、大人しく言うことを聞いているのだった。
「同じ敷地内だっていうのに、アルディ家って広すぎよね。歩き回ってるだけで運動になりそうよ。」
ぶつぶつ呟きながら、別館のセキュリティを通り抜け、ミシェルの部屋へと向かう。
コンコン、とノックして返事も待たずに入ってしまったあたしは、扉を開けて硬直した。
お風呂上りであろうミシェルがバズローブを開いたまま一人掛けのソファに座っているのを正面から見てしまい、ショックであたしは貧血を起こしてそのまま後ろへ倒れ込んでしまった。
あたしが猫にされてたとき以来よ、上から下まで生まれたままのミシェル見たのって・・・。


「・・・ミシェルがあたしをからかう手段が、なんであんなに容赦ないの?いくら最近あたしがジルを独り占めしてたからってひどくない?ミシェルはスペインに長期で仕事してていなかったんだから、その間くらいいいじゃないのよ、ねぇ?」
スペインの朝市の写真など、現地に溶け込まないとわからないような情報を纏めてくれたミシェルだけれど、何が気にくわなかったのかセクハラ紛いのことをされてしまった。
大きなソファに濡らしたタオルを額に乗せ寝そべるあたしに、仕事から帰ってきたシャルルはそれは冷たい冷凍光線を向ける。
「ジルに構いすぎるからだよ。ミシェルはジルのことに関しては狭量だからね。身を以て体験したんだから理解出来ただろ。」
「何よぅ、女子会に誘っただけじゃない。それにあたし、ジルとくっつくの好きだもん。」
あたしの幼馴染とお友だち達がパリに来るっていうから、女子会することにしたのよね。
「体は男で心は女性という幼馴染と友だちだね。」
「うん、そう。楽しいわよー。ジルも楽しみにしてたし。ミシェルも参加することで落ち着いたと思ってたんだけどなー。」
「それの意趣返しだな、今回のは。」
呆れたように言葉を零すシャルルに、あたしは首を傾げてしまう。
「エリナも参加するんだけど、カークも心配して来れたら来るって。心配ってなんでかしら?」
「全ての事に対してだね。」
なんで、なんでよ!?
「オレも行けたら行くが・・・。やれやれ、保護者の気分だ。」
きっと保護者の立場のシャルルやミシェルやカークが、むくつけき体躯のお姉さま方に囲まれるんでしょうね・・・。
その様子を想像して苦笑してたら、シャルルに視線を向けられてしまった。
「な、何?」
「ミシェルの裸、見たね?」
「だって、・・・あれは不可抗力でしょ、え、シャルル?」
両脇の下に手を入れられ、そのままシャルルに子どものように抱き上げられたあたしは、じたばたと暴れた。
「記憶を上書きしてあげる。・・・不埒な思考も色々と躾けておかないといけないしね?」

このあと、うん、色々大変だった。
バスルームに連れ込まれて、・・・あんなことやそんなことや、うう。

このとき支払った頑張りのおかげか、女子会は盛況だった。
シャルルとミシェルがそれなりに場を執り成してくれたからね、特にミシェルが。
カークは逞しいお姉さま方におもちゃにされてて可哀想やらおかしいやらで、見かねたエリナが助けに行っていた。
ジルはにこにこしていて、一番落ち着いていた。
なんにせよ、せっかくの集まりだもん、楽しまなくちゃね!



Fin

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