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迎春花 7 (カーク×エリナ) 最終話

カークが怒っている、たぶん。
わたしの部屋に初めて入ったカークは、すぐ盗聴器がないか調べ始めた。
一通り調べてないとわかったとたん、カークはわたしのベッドに座り込んだ。
「あの、カーク・・。いつもと感じ、違うよ?」
そう言ったわたしを、カークは風に攫うように抱きしめてきた。
逞しいその身体に包まれるように抱かれ、カークの唇が、わたしの唇と重ね合った。
少し唇が離れると、息をしようとして開けた口にカークがまたキスをしてきた。
カークの大きな掌で腰を撫でられ、わたしがびくっとすると、その隙にさらに深いキスを仕掛けてきた。
「は、ぁっ、待って、カーク・・っ。怒ら・・ないでっ・・・。」
わたしが涙を浮かべてそういうと、カークはびくっとしたようにわたしを見た。
ああ、やっぱりカークは優しい。
自分の中の嵐をわたしにぶつけるのを躊躇うカークが愛しい。
「カーク、わたしに触って。いっぱい触って。今はわたしのことだけ考えていて・・。」
カークは黒曜石のような瞳をぎゅっとつむると、わたしの唇をぺろっと舐めた。



わたしをうつ伏せにして裸の肩甲骨の上を舐めるカーク。
大きくてすこし武骨な手がわたしの感じる部分を引き出そうと艶めかしく触れてくる。
わたしがカークに抱きつこうとすると、仰向けにしてわたしの両腕を自分の鍛えられた身体に回してくれる。
さらさらしたアーモンド色のカークの髪がわたしにかかり、カークの顔をわたしの胸元へ導いてしまう。
「・・カーク、大好き。」
「愛してる、エリナ・・・。」
わたしはカークの熱を受け止め、カークはわたしを二人だけしか知らない場所へと連れて行ってくれた。




ふと目を覚ますと、わたしはカークの暖かい胸の中に包まれて二人でベッドの中にいた。
うつ伏せになって少し起き上がりベッドの上の小窓を開けると、黄梅が咲き乱れていた。
四方いっぱいに伸びた枝に黄色い小花をさかせる、迎春花ともいう花。
「インチュンホウ・・・。花言葉は「恩恵 優美 ひかえめな美」だね。」
いつの間にか目覚めていたカークが黄梅を見てそう呟いた。
「春の始まりを告げ、見ているだけで気持ちが温まり恩恵を与えてくれる・・・。オレにとってエリナはそういう存在だ。ずっと、一緒にいよう。同じときを歩んでいきたいんだ。」
そう言って優しく唇を重ねてきたカークに、わたしは涙交じりで頷いた。
わたしもあなたと同じものを見ていたい。
重ね合うお互いの手をしっかりと繋いでいこうね。

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Fin
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迎春花 6 (カーク×エリナ)

がちゃん、とわたしは久しぶりに自分の部屋の扉を開けた。
そう、わたしは日本に帰ってきたのだ。
あのあとシャルルさんの許可が下りるまでシャルルさんのお屋敷にお世話になり、そのときいろいろな話を皆とした。
一番大きかったのが、マドレーヌさんがうちのお店で働かないか?と言ってくれたことだった。
わたしが外国で働くなんて考えたこともなかったけれど、これは、新しい契機なのかもしれないと思い、マドレーヌさんのお話をありがたく受けさせていただくことにした。
フランスに住むための手続きや準備はジルさんが助けてくれることになり、わたしは一度帰国して身辺整理することにした。
部屋の空気を入れ替え軽く掃除をし、コーヒーを淹れて一息ついた頃携帯が鳴った。液晶を見るとカークの名前が出ていた。
「もしもし、カーク?すごい、今かけようと思っていたの!」
「良かったよ、無事に着いて。着いたら電話くれるって言っていたけれど、ついこちらからかけてしまったね。なんだか、早く会いたくなって・・。」
「カーク・・。」
「仕事が一段落したら迎えに行くから。いろいろ挨拶もしたいしね。」
・・・・はい?


「ふーん、あんたがエリナが選んだ相手なの?まさか外国人連れてくるとは思わなかったわねぇ・・。」
わたしとカークが並んで座る前で蓮ちゃんが値踏みするようにカークを見ている。
ここは蓮ちゃん馴染みの喫茶店でコーヒーが美味しいの・・・って言ってる場合じゃないわよね・・。
わたしがカークを空港まで迎えに行くと言ったら、なぜか蓮ちゃんまで付いてきちゃって、まるでわたしの兄弟代わりに紹介することになったのだけれど、微妙な空気が流れている。
蓮ちゃんは言葉遣いはこんなだけれど、れっきとした男の人だ。さらさらの茶色の髪を短くカットして縁なしメガネを粋に使いこなすお洒落さんで、背は高く鍛えられた身体をしている。
「オレはカーク・フランシス・ルーカスといいます。君がユリナたちの幼馴染の蓮さんですね?」
「そうよ、槇田 蓮って言うの。幼馴染っていってもユリナのとこは引っ越しばっかりだったから、中学校の時の少しとユリナがこっちに落ち着いてからの付き合いだけどね。」
蓮ちゃんがホットを一口飲んでからちらっとカークを見る。様子のおかしい蓮ちゃんをカークは何も気にしてないように接してくれていて、わたしはホッとしていた。
「ところでカーク、あなたユリナのどこに惚れたの?答えしだいじゃフランス行きなんて潰すわよ?」
縁なしメガネの奥から切れ長の瞳を煌めかせ言い募る蓮ちゃんに、カークは落ち着いた声で答えた。
「全部だよ。」
ぶほっとコーヒーを喉に詰めそうになっているわたしの背をカークが優しく撫でてくれた。
わたしたちのそんな様子を見て、蓮ちゃんは呆れたように言った。
「あんた、今までエリナに言い寄ってこようとしたストーカーまがいの男たちとは違うみたいね。・・今のあたしがあるのは、こんなあたしでも普通に受け止めてくれたユリナのおかげなの。カミングアウトしたら人生楽しくなったしね。そのお礼にあたしは今までエリナに近づく変態どもを撃退してやってたの。カーク、あんたあたしに感謝しなさいよ、エリナが真っ新のままあんたのとこ行けるんだから!あー、あたしもお目付け役やらなくてすむようになって良かったわ~。」
・・・えーと、何それ?
「蓮ちゃん、わたしそんな言い寄られたことなんてないわよ?」
わたしが困惑しながらそういうと、蓮ちゃんがドンッとテーブルを叩いて一喝した。
「あんたの後を付ける奴らを潰したり、盗聴器取り外したり、襲いかかろうとする輩を撃退してたのはあ・た・し!
これでもあたしの家はブラックなとこですからね。あたしが脅威になってしつこくするやつらが消えていったから、ユリナは安穏と暮らしてられてたの。怖がらせてもいいことないから今まで言わなかっただけ!」
もう早くフランスに行け!という蓮ちゃん。
わたしの肩を痛いくらいに抱くカーク。
思いもかけない事を聞かされ卒倒しそうなわたし。
「・・・親御さんに挨拶したら、早くフランスに戻ろう。オレの横の部屋が空いてるからマドレーヌさんが貸してくれるそうだ。エリナ、いいね!?」
これ断ったらどういうことになるのかしら・・・。
わたしは肩の荷が下りたという蓮ちゃんと、決意を固めたカークに挟まれ途方にくれていた。



迎春花 5 (カーク×エリナ)

わたしがケガを負ってから二週間が過ぎた。
リハビリがてら、わたしはシャルルさんのおうちの中を散歩していた。
カークは本当に忙しいらしくてめったに会えないけれど、お花は毎日届けられていた。
マリナちゃんがそのお花に囲まれているわたしをスケッチしてカークに渡すわ!とか言い出してわたしは困っていたのだけれど。
ふと、お部屋の中にマリナちゃんのスケッチブックがあるのが見えた。
今日マリナちゃんはリュクサンブール公園へスケッチに出かける、と言ってさっき出掛けたばかりだ。
やだ、マリナちゃんったら。忘れて行ったのね。
スケッチブックを持って玄関先に行くと、いつもいる執事さんがいない。
わたしはスケッチブックの後ろを少し破り、そこに「マリナちゃんの後を追いかけていく。」と書いて外に出た。

本当は一人でいてはいけない、とカークやシャルルさんに言われていたのだけど、すぐ来たタクシーに乗っていくだけだから大丈夫かな、と思っていた。
でも、それは間違いだった。
タクシーに乗って少ししてから、わたしは運転手に薬品を塗ったハンカチを押し当てられ、意識を失わされた。


頭に響く痛みでわたしは目が覚めた。
都市の外れにあるような倉庫の中で、わたしは口に猿轡を噛まされ、椅子に縛り上げられていた。
「目が覚めたか、お嬢さん。」
さっきの運転手がわたしを見下ろして楽しそうに笑っていた。
シャルルさんから借りている翻訳イヤリングを付けていたので話していることは解った。
40代ぐらいの金髪に青い目のだらしのない感じの男だった。
「お嬢さんがあの爆弾を見つけたおかげで余計な奴らに目を付けられちまった!あんたの身体に爆弾を仕掛けさせてもらった。これであいつらの鼻を明かしてやるぜ。」
そういえばわたしの後ろからチッチッ・・・と音がする。わたしはぞっとした。
「あと一時間後に爆発する。悪いがオレはパリから離れさせてもらうよ。じゃあな。」
男はそう言って下卑た笑いを浮かべて出て行った。


わたしはバカだ。
カークやシャルルさんはこれを危惧していたから一人になるな、と言ってくれていたのに。
わたしは今まであったことを思い出して涙がぽろぽろ出ていた。
その中で一番にあふれ出るのはカークがくれたたくさんのお花だった。
もっとカークと話したかった。カークと一緒に・・いたかった。
そのときわたしは自覚した。
カークをただ一人の人として心に棲まわせていることを。

そのとき、ドーン!と扉が蹴り開けられる音がした。
はっとわたしが顔を上げると、肩で息を切らせたカークが入ってくるところだった。
うそ、どうしてここが解ったの・・?
カークはわたしの猿轡と縄を外すと、爆弾の解体を始めた。
「爆弾魔の名前はアダン・バイ。」
カークが硬い声で告げる名前にはっとした。
「カーク、その男が一時間後にこの爆弾が爆発するって言ってたわ!わたしのことは放っておいて逃げて!」
「大丈夫だ、シャルルに爆弾解体を叩きこまれたからな。オレを信じろ、絶対に助けてやるから!」
わたしを見据えてぎらっと輝く黒い瞳を見て、わたしは魅入られたように何も言えなくなってしまった。
「アダンはオレの部下が捕まえに行っている。アダンはシャルルが調べている疾病の患者で、いろいろきな臭い噂があった。転々と住む地を変え犯行を行っていたんだ。臆病でなかなか尻尾を出さない奴だが、公園の爆発でオレ達が動いたのを見て、オレに何かしてくるだろうと思っていた。」
カークが解体を終えて爆発物を外してくれた。
わたしはほっとして床に座り込んでしまった。
カークはわたしの前に跪き、わたしの両肩を強く掴んだ。
「まさかエリナが一人で外に出るなんて思わなかった・・!翻訳イヤリングにGPS機能が付いていたから良かったものの、こんな心配かけさせないでくれ・・!」
血を吐くような悲壮な声でわたしに語りかけるカークに、わたしは自分の浅はかさを思い知った。
「ごめんなさい、カーク・・。助けてくれて、ありがとう。」
「・・エリナ、オレはずっと花を送っていたけれど、その意味は伝わってる?」
「意味って・・?」
花言葉のこと・・?
確か、芍薬は「恥じらい」、黄色のカトレアは「魅了」、ストロベリーキャンドル「胸に灯をともす」、アスター「信じる心」、ブルーレースフラワー「慎み深い人」、ピンクのバラ「愛を誓う」・・・。
「あ、あのカーク、まさかその・・、そうなの?」
「やっと通じた?そうだよ、花言葉どおりの想いを送っていたんだ。・・受け取ってくれ。」
わたしをぎゅっと抱きすくめるカークの力強い身体の中でわたしは小さく頷いた。
「はい・・・。」
カークのさらさらのアーモンド色の髪が風で吹かれる中で、わたしたちはお互いの気持ちを思いあった。




迎春花 4 (カーク×エリナ)

懐かしい夢をみた。
わたしたち三姉妹は仲が良かったけれど、小さいけんかもよくしたの。
だけど一度すごく大げんかをしたことがある。
三人がそれぞれを羨ましく思いあっていて、きっかけはささいなことだったけどエスカレートして取っ組み合いのけんかになった。そのとき、思い切り吐き出して泣きあって仲直りして・・。
それからわたしたちは腹を割って話せる間柄になった。
わたしは思慮深いユリナちゃんが好き。マリナちゃんの後ろを顧みないところが好き。
わたしは凡庸な子だけれど、そんなわたしを見てくれる人がいるのだろうか。



ふと目を覚ますと白い天井が見えた。
微かに消毒薬のにおいもする。・・・ここは、病室?
「エリナさん、目が覚めましたか。」
静かなジルさんの声が聞こえて、わたしは意識がはっきりしてきた。
「ここはアルディの病室です。エリナさんは公園で女の子を庇い、そのあなたたちをカークが助けたのです。・・最近こちらに南下してきた爆弾魔による犯行に巻き込まれたようです。」
コンコンというノックのあとに、カークさんが病室に入ってきた。
「エリナ、目が覚めて良かった・・!」
「カークさんこそ大丈夫なんですか、あの女の子はどうしました?」
「オレはいつもより着込んでいたからかすり傷くらい。女の子はエリナのおかげで無傷で母親の元へ帰ったよ。ありがとう、エリナのおかげだ。」
「あの子が無事で良かった・・。わたしこそカークさんに助けてもらって、ありがとうございます。」
カークさんにちゃんとお礼を言おうとして起き上がろうとしたら左足に鈍痛が走った。
「痛っ・・。」
「爆発から身を庇ったとき、足首のところを何かで切ったようです。少し深いので安静にしてくださいね。」
「ごめん、エリナ。オレのせいだ・・。」
くっと口唇を噛み黒い瞳に暗い影を落としたカークさんを見て、わたしは思わずカークさんの両頬に手を添えていた。
「カークさんのせいじゃなくて、これくらいで済んだのがカークさんのおかげなんです。こんな怪我すぐ治ります。それよりあんな小さい女の子を巻き込むような爆弾魔を早く捕まえてください。お願いします。」
カークさんがじっとわたしを見つめてきた。わたしもカークさんの黒い瞳に引き寄せられていた。
「・・オッケイ、警察の威信に賭けて捕まえてみせるよ。だからエリナはちゃんと怪我を直して待っていて欲しい。」
わたしの髪をくしゃっと撫ぜて微笑むカークさんを見たとたん、自分のしたことが恥ずかしくなって顔が熱くなってしまった。
「エリナ、目を覚ましたのね!ちょっとシャルル、エリナの足の傷って痕残るの?」
バーンと扉を開け放ち入ってくるマリナちゃんとやれやれといった様子で入ってくるシャルルさん。
「誰に向かってものを言っている?痕なんてつくわけないくらいきれいに縫ったから大丈夫だ。・・エリナ、足首の傷は少し縫ったから全治3週間ってところだ。ちゃんと治るまで君はここにいること。滞在についての事務手続きはジルがやる。これは主治医命令だから。いいね?」
わたしがちょっとポカンとしているとマリナちゃんから助け舟がきた。
「蓮ちゃんにはあたしが後で電話しとくからさ。エリナはゆっくりしなよ。まだショックも抜けきらないでしょ?」
「・・蓮ちゃんって誰?」
不審げにマリナちゃんに聞くカークさんにわたしが答える。
「わたしたちの幼馴染で、今わたしが住んでるアパートの管理人なんです。地主さんの息子なので安く貸してもらってて。」
「あいつさー、口うるさくて小姑みたいにエリナのこと気にしてんのよね。あたしがうまいこと言っててあげるからさ。安心して。」
「また口げんかになるんじゃないの?」
わたしがくすくす笑っているとシャルルさんがカークさんに話しかけた。
「今回の爆弾魔を追うのは君たち警察の仕事だが、少し興味があることがあってね。話があるんだがいいか?」
促すシャルルさんにカークさんは頷き、カークさんはわたしの手を取り微笑んでくれた。
「来れるときは来るよ。だから待ってて。・・それとオレの事はカークでいいよ。」
「え、えーっと・・。カー・・・ク・・・って舌噛んじゃったっ!いったーい・・。」
わたしがもごもごしてたら、またくしゃっとカーク・・に髪を撫ぜられ、シャルルさんと二人で病室を出て行った。
「・・なんか二人いい雰囲気じゃない?何があったのかマリナさんに教えなさいよ。」
わたしを小突いてくるマリナちゃんににっこり微笑み返す。
「マリナちゃんがシャルルさんとのことを教えてくれるならいいわよ?」
うっ、と唸るマリナちゃんにジルさんが微笑んだ。
「マリナさんの負けですわね。」




それからカークは多忙を極めているだろうに、毎日お花を用意してくれた。
カークが来れるときは手渡しで、無理なときはマドレーヌさんやお使いの人が持ってきてくれた。
カスミソウ、赤いバラ、アスター、ブルーレースフラワー、芍薬、黄色いカトレア。
少しづつ増えていくお花にわたしは心がほっこりしていた。
カークの心が嬉しかった。




迎春花 3 (カーク×エリナ)

カークさんはシャルルさんに仕事の用事があり来たようだった。
刑事警察局地方管区部を経て、パリ警視総監指揮下の首都警察の警視正というお仕事をされてるんですって。警察の組織の事はよくわからないけれど大変なお仕事なのだと思う。
あのあと大分時間が経ってからシャルルさんが帰ってきてわたしに挨拶してくれたあと、二人は執務室へ入っていった。
シャルルさんを待っている間、カークさんがわたしが花屋さんで働いていたという話を聞いて、自分のアパルトマンの下に花屋があり、そこのオーナーが面白い人なので会いに来ないかと誘ってくれた。
「わたしがここに居られる間ならぜひお会いしたいですけど、カークさんは大丈夫なんですか?」
「ここ最近休みも取れていないからね。シャルルに確認することが終われば事件は片付きそうだし大丈夫だと思う。連絡するよ。」
カークさんがわたしの右小指に自分の左小指をかけ、「約束。」と呟いた。
わたしは暖かい気持ちになった。彼は自分の言葉を信じてくれ、と言っているのだ。
わたしはカークさんを見つめ、軽く頷いた。


色とりどりのお花がお店いっぱいに咲き乱れてて綺麗。パリの人達は鮮やかな色のお花が好きなのかしら?お店にはお洒落な鉢植えやラッピング商品を用意したところが併設されていて、お花を男性が女性に自然にプレゼントする習慣のあるこの国の洗練さを表してるなぁと思う。
やっぱりお花に囲まれていると落ち着く。力仕事だし手は荒れ放題になっちゃうけどわたしはこの場所が好きだ。
わたしはカークさんと一緒にマダム・マドレーヌのお店”anneau clef"へ訪れていた。
忙しいだろうにカークさんはわたしとの約束を守ってくれたのだ。
マリナちゃんに一緒に来るかと誘ったのだけど、シャルルと出掛けるからカークをお願いね!といわれたの。
変なの、わたしのほうが頼ってばかりなのに。
わたしはシャルルさんが作ったという翻訳イヤリングのスペアを借りている。話してることが解ればあとは片言のフランス語と身振り手振り勢いでどうにかなるでしょ!
カークさんが紹介してくれたのでそう思ってマドレーヌさんに挨拶したら。
「こんにちは!よろしくお願いするでござる!」
・・・はい?
「わらわは日本語を少しは話せるが、日本人の夫につきあい時代小説で覚えた日本語でしか話せぬゆえご勘弁くだされ。それも古文と現代文が混じってしまうのじゃ。カーク以外では日本語など久しぶりでのう。」
見た目はパリのお洒落なおばさまという感じのマドレーヌさんから出る言葉にわたしは目を丸くしてしまった。
カークさんがわたしの隣で面白そうに見ている。
「ね、びっくりしただろ。オレもこのアパルトマンに越してきて挨拶に行ったら日本の時代小説が並んでたから尋ねたら、話すのが古風な日本語でね。たまにはアルディ邸以外で日本語が話せるのもいいかと思ったんだ。」
「まぁ茶でも飲んでいきなされやお嬢さん。わたすは取って食いはしまへんえ。カーク、しっかり捕まえぇや。」
マドレーヌさんがにこにこ笑顔で誘ってくれたけど、最後、何のこと言ってるのかしら?



「はふー。寒いから長居は出来ませんけど、ここは落ち着きますねぇ。」
わたしとカークさんはマドレーヌさんの所でゆっくりさせてもらったあと、近くの公園に来ていた。
散歩している人たちはちらほらいるけど、皆もこもこ。わたしもそうなんだけど。
マリナちゃんの服や小物をジルさんが大量に持ってきて選びながら着せてくれた。エリナさんの服もご用意したいのに・・と悲しそうに呟くジルさんを宥めて納得してもらった。ちなみに宥め方はミシェルさんに教えてもらった。さすがジルさんの恋人だなぁと感心してしまった。
「マリナはどう?・・シャルルとうまくやっている?」
今日は結んでいないアーモンド色の長い髪を風に流され、黒い瞳を眩しそうに眇めながらカークさんが口を開いた。
「ケンカばっかりしてるみたいですけど、犬も喰わないってやつですね。」
わたしは背の高いカークさんを見上げていたけれど、しぐさでベンチを進めるカークさんに促され並んで座った。
「マリナちゃんが長い間ひとりでいてがんばってたの見てるから、シャルルさんの傍にいれるようになって良かったと思います。」
「シャルルも、いろいろあったからね・・。」
遠くを見つめるカークさんの瞳は悲しそうだった。
「オレが出来ることは少なかったけれど、シャルルのことが心配だった。・・だから、マリナがここにいるようになってシャルルが落ち着いたので安心したよ。」
そう話すカークさんを見てわたしは涙ぐんでしまった。
この人は、きっと・・・。
わたしはぎゅっとカークさんの左手を握りしめた。
「シャルルさんを見守っててくれてありがとう、マリナちゃんを託してくれてありがとう・・。」
カークさんは少し微笑んでわたしの涙を大きな右手で拭ってくれた。
「・・オレは大丈夫だよ。心配してくれてこちらこそありがとうだよ、エリナ。不思議だな、まだ2回しか会っていないのにエリナといると落ち着くよ。」
くしゃくしゃとわたしの頭を撫でるカークさんはさっきよりすっきりした顔になっていた。
そのとき、わたしたちが座っていたベンチの後ろの木から3歳くらいの女の子が出てきた。
「お母さんはどうしたんだい?」
カークさんがフランス語で問いかけると女の子が泣きそうになりながら言った。
「お母さんとはぐれてしまったの。うろうろしてたら変な袋見つけちゃって・・。」
女の子が走り出したのでわたしが追いかけたら、近くの木に紙袋が置いてあった。
ちらっと見かけたら、ちっちっちっ、という音が聞こえる。これは・・。
わたしが女の子を抱えて走り出すのと、カークさんがそんなわたしたちを受け止め走り出し出来るだけ離れた場所でわたしたちに覆いかぶさるのと、爆発音が響きわたるのが同時だった。

 


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