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さくらんぼの共鳴 (さくらんぼ聖書)

「べべ、どんな様子なんだ?お腹の子は大丈夫なのか?」
「大丈夫よ、イツキ。ちょっと安静にしておいたほうがいいだけだから。病院にいるほうが安心でしょ?」
少し背凭れを上げた産科病棟のベッドに寄りかかるあたしを心配そうに見るイツキに、朗らかに笑って答えた。
「芹沢の両親も有賀のお父さんも仕事が忙しくてあまり会えないし、城児クンは仕事の合間にバイクに係ってるから、あたしが家に大人しくしてないとうるさいの。病院にいるとマシなんだけど。」
「妻が妊娠しているときに、まだバイクに係るあいつが気に食わないね。」
茶色の瞳をきりっと歪ませて苛立ちげに言うイツキに、こういうとこは変わらないなぁって思う。
本当にあたしに優しくしてくれる、あたしのお兄さん、芹沢一樹。
「あたしが妊娠してから、前より傍にいてくれるようになったわよ。そのかわりすごく心配性になったんだけど。たまにバイクの方に行ってもらわないと、ちょっと窮屈かも・・。これ、内緒よ?」
あたしが人差し指を立て口にあててお願いすると、イツキがいたずらっぽく笑った。
「あいつがそんなんじゃ、その子の名前を決める権限なんてないね。オレがいろいろ候補を考えてるんだよ。」
イツキがそう言ったとたん、病室の扉がガラッと開けられた。
「何言ってんだ、オレの子なんだからイツキが決めるなよ。前から言ってるだろ。」
憮然とした様子で城児クンが入ってきて、あたしのお腹を大切そうに撫でる。お腹の子もちょっと足で蹴っているのがもにょもにょとした感覚で解る。
「オレの姪になるんだからいいだろうが。女の子の名前考えるの楽しいよ。男でも女でもどちらでも読める名前もいいよな、べべ。」
「まぁ八割がた女の子だって言われてるけど、だからイツキ、勝手に決めるなって。」
さくらんぼの二人は最近会うとよくこの話で盛り上がる(言い合う?)らしい。あたしの前ではあまりしなかったけど、ミズキ姉さんの前では散々言い合ってたらしいの。
ミズキ姉さんはハーフシスターになり始めたときはあたしを相手にしてくれなかったんだけど、イツキの度が過ぎる世話焼きでたまに疲れることでお互い愚痴を言い合い、城児クンと仲よく付き合ってるあたしが凄いと感心してくれて(どういう意味だと思うときもあるけど、なんかわかるなぁ)、今では良くしてもらっている。
フランスのシャルルさんの知り合いの人とミズキ姉さんは結婚して、たまに日本にも帰ってくるけど、たまたま二人のさくらんぼと会ったとき、名づけでバトルする二人に付き合わされたそうだ。うっ、気の毒。
「あの二人、向かうベクトルは違うけど、暑苦しいところは同じよね。やっぱり双子だわ・・・。」
ほとほと疲れたらしいミズキ姉さんから電話が来て、あたしは苦笑するしかなかった。
「べべ、女の子が生まれたら、家の近くにある私立幼稚園に行かせては行けないよ。」
バトルを一時終戦したらしいイツキが、顔を真剣にしてそんなことを言い出した。
「な、なんで?」
「あそこはお遊戯発表会のとき女の子に赤いレオタードを着せるんだ。そんなの耐えられない!だろ、城児?」
「オレもそれを聞いてるから、行かせるつもりはないよ。レオタードなんてとんでもない!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
赤ちゃん、まだ生まれてもないのに暴走しているお父さんとおじさんがいるよ。
あなたも苦労しそうね・・・。
あたしはお腹を撫でながら、くすくすと笑った。
あなたを待っている人たちがいるよ、だから元気に生まれてきてね。



Fin
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