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逢いたい 3 (シャルル×マリナ)

「どう、落ち着いた?」
暖かい紅茶を差し出してくれながら、香里奈さんがくすくす笑って聞いてきた。

「お風呂ありがとうございました・・。うう、お尻痛い。ミシェルのバカー。」
「あ、だからすぽっと着れるようにワンピース用意してたのね。さすがミシェル様・・。ぶぶっ。」
いや、もう笑い噛み殺さなくていいから、香里奈さん。息子のイーサンは憮然としたままだけど、ならここにいなくてもいいのにねぇ。

「あのね、ここは何代目前かのご当主さまが、日本の絡繰り屋敷に感銘を受けて作らせた館なのよ。あたしの実家は要請を受けてここを作った家でね、ずっと放置されてたんだけど、ミシェル様の持ち物になったのであたしたち家族がここを管理するようになったの。ここを回ったミシェル様は、ほぼどこに絡繰りがあるか知っているけど、あたしたちはミシェル様ほど精通してないのよね。」
「父さんがこういうの病的に好きで、母さんとのなれ初めも父さんが母さんの実家に単身乗り込んでいって弟子入り志願したのがきっかけなんだ。・・・さっきは、その、引き上げなくて悪かったな。シャルル様とのことは信じられないけど!」

ぼそぼそとイーサンが説明しつつ謝ってくる。でもシャルルとのことは認めたくないらしい。
こういう子ってツンデレっていうのよね、確か。ツンが4でデレが6ぐらいの割合なのかしら。うーん、面白い。

「イーサンは、あたしがシャルルの傍にいるのはおかしいっていいたいわけね。」
あたしが落ち着いて話を聞く体勢を取ったせいか、イーサンは少したじろいだ。
「おまえみたいなどこの馬の骨かわからない庶民が、当主夫人なんて認められると思えないだろ!」
「耳にタコが出来るくらいそういうことは言われてるから、全然こたえないわねぇ。悪いけど。」
あたしは一口紅茶を飲み、ほっと息を吐く。香里奈さんは黙って見守ることにしたようだ。
「あたしだって、それは思うけど。でもあたしが邪魔になったらシャルルは伝えてくれると思うの。あたしは二号さんとかはイヤだからそうなるくらいなら離れる。・・・でもね。」

ふっとシャルルの面影を思う。
少し前の、触れたら切れるような雰囲気の彼を。

「今、シャルルはあたしとこれからも過ごせるようにしてくれてるのがわかるの。ミシェルもジルもそう。あたしにそこまでしてもらう価値があるなんて思えないけど、シャルルはもうあたしを置いていかないって言ったから、あたしは彼を信じる。それだけよ。」
何があっても揺らがないこと、彼を見ていくこと。それがあたしの出来ること。
後で後悔するようなことがあったとしても、自分が決めた事だからしっかり前を見る。
ここにいるようになって、それがあたしの真情になった。

「・・・そういうことは、本人に言え。別に他人に告げる必要はない。」

静かなテノールの声が部屋に響き、香里奈さんは面白そうに瞳を煌めかせ、イーサンはあわあわになって、あたしは想いきりぐりっと後ろを振り返ってしまい、首を痛めそうになった。
「シ、シャルル?あんた何でここにいるの?え、仕事は?」
「狡猾な弟と優秀な従妹殿の計らいで片がつき、ついさっき帰った。マリナを迎えに行ってやれとこの館へ向かわされたんだ。・・・マリナ。」

そう言って、すっとシャルルが差し出したのは衣装ケース。

「これに服が入ってる、着替えて来い。帰るぞ。」
「え、なんで着替えるの?今着たばっかりなのに?それにあたし、ここには見たい絵があってきたんだもん、それ見るまで帰らないわよ!」

「マリナさん、シャルル様の言うとおり着替えていらっしゃい。・・・シャルル様、マリナさんが見たい絵があるお部屋にはあたしが案内しますから、こちらでお持ちになってはいかがですか?」
戸惑うあたしに、だんだんと不機嫌になるシャルルを見て、香里奈さんがそう執り成してくれた。

小さく溜息を吐き、シャルルは壁に凭れかかった。
「いや、いい。オレが連れて行こう。ただし、服を着替えるのが条件だ。」
そうしなければこのまま連れ出す、と思い切り言下に告げていうシャルルに、あたしはいま一つ納得出来ないまま了承した。

「わかったわよ、ちょっと待ってて。や、やっぱりお尻痛い~。」
よろよろと動き出したあたしを再度案内してくれた香里奈さんが、別部屋に入った途端、呆れたように溜息を吐いた。

「これでイーサンも納得せざるを得ないかもしれないわね。あの子はアルディ家の双子に憧れが強くってねぇ。ツンになりきる度量もないくせに食って掛かって、後でシュンと萎れるの。きっと今もシャルル様と同じ部屋で息詰まる空間に耐えてるはずよ。」

あたしは結構慣れちゃってるけど、イーサンにはあの冷凍室状態はキツイかもねぇ。
早く帰ってあげないと凍死しちゃうかも。

そう思って勢いよくワンピースを脱いだあたしに、曰くありげに香里奈さんが微笑む。
「シャルル様、ミシェル様がご用意した服をマリナさんが着るのが我慢できないのね。ミシェル様がこの服はすぐ用無しになるって仰ってたけど、本当だったわね。」

この服はまた来て水だらけになったときの為に、置いておくわね。
そういう香里奈さんに、シャルルの用意したこれまたワンピースの後ろのホックを留めてもらいながら、あたしは赤面するしかなかった。
この屋敷で転げまわったときより、心臓に悪いかも・・・。




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逢いたい 2 (シャルル×マリナ)

い、いったいこの館って何なの・・・。
あたしはすっかりよれよれになっていた。


悲鳴を上げて落ちたあと、薄暗い空間に思いっきりお尻を打ってしばらく悶絶していたの。しくしく。
少し回復してみると、落ちた場所は結構高くて登れそうにないので微かな灯りをもとに、空間に続いていた階段を歩いて行った。
もちろんおやつの入った籐カゴとペンライトは手放してないけどね!
これらがなかったら進む気も起きないし歩けなかった。



だってね、聞いてよ!

やっと明るい部屋に着いたと思って壁に寄りかかったら壁ごとひっくり返る、混乱して壁に手を付いたらダストボックスみたいにかぱっと開いて転げ落ちる、頭がくらくらして立ち上がったら目前に金の洗面器が落ちてくる、戦き後ずさったらまた床が開いて滑り台を滑るように滑降してひっくり返ったのよ!!
『華麗の館』じゃなくて『絡繰りの館』とでも言うのかしら、ここ。
さすがミシェル、意味わかんないとブツブツいいながら歩いていたら、道の先が明るく光るようになってきた。

こ、今度こそちゃんとした部屋に行けるのかしら。
そんなふうに、一瞬でも期待したあたしがバカだった。
一歩踏み出した途端、床が急角度で斜めになり、おまけに足場が滑りやすく出来ていて尻もちをついたまままた滑降していき、

「ぎゃーーーっ!!!」

出口方面は少し上向いていたため、そのままぴょーんっとあたしはウォータースライダーのように空中に放り出され、浅瀬の池の中にぼっちゃんっっ!




「・・・ミシェル様の仰る通り、ホントにここから出てきたな。こんなちんちくりんがシャルル様のお相手だなんて信じられないね。」


しばし呆然としていたあたしだったけれど、流暢な日本語で繰り出される聞きなれた無礼な言葉にムッカーときて、その声の主をぎっと睨んだ。
「な、なんだよ。本当のことだろ!睨むんじゃねーよ!」
・・・・・ケンカ吹っかけてきておいてたじろいでどうすんのよ。この少年は。
そう、年頃は12・3歳くらいの鳶色の髪をした少年が、あたしの嵌まった池の縁に立っていたのだ。

「こら、イーサン!おまえ、邪魔だよそこどきな!」
威勢の良い茶色のボブスタイルのすらっとした女性が、イーサンとかいう少年の頭にチョップを入れると、少年は頭を抱えてその女性を振り返って食って掛かっていった。
「何すんだ、母さん!」
「女性が水の中で呆然としているのに見ているだけなんて男の風上にも置けないね、このバカ息子が!」
「じょせいぃぃ!?こいつはただのガキ・・いってぇ!」


さらに頭を叩かれる少年を見て、その少年の母さんという女性の容赦のない仕打ちに、あたしは言われた内容に怒るよりも面白くなってしまった。
思わずくすっと濡れ鼠になりながら笑うと、少年の母さんが手を差し出してあたしを引っ張り上げてくれた。


「あなたがマリナさんね。ミシェル様から着替えもお預かりしてるから、お風呂に入ってらっしゃいな。そのあとお茶でもしましょう、訳わからないでしょ?あたしは香里奈、この愚息はフランス人の旦那とのハーフでイーサンっていうのよ、よろしくね。」
にこっと可愛い笑顔を浮かべて話しかけてくれる香里奈さんにつられて笑いながら、あたしは心の中で、

「ミシェル、着替えってどういうことよ~!」
と叫んでいた。






逢いたい 1 (シャルル×マリナ)

ここはどこ、あたしはだーれ?


・・・・・・ここはアルディ家別館、ミシェルの持ちもののどこか。あたしは池田麻里奈!
ふっ、色んな所打ったけど、頭の中身は飛んでなかったみたい。


生暖かい笑みを浮かべているのが自分で解るほど、あたしはぼんやりしていた。
そうでもしていないと、暴れだしたくなるからだ。
でもそんなね、お腹すくだけで疲れることしたくないのよ!
だっていつもの、ミシェルのお遊びに巻き込まれただけなんだもの、ええ、いつもの・・・。
あああっ、やっぱり悔しいっ!けれども!
あたしもいい加減勉強すればいいのに、なぜミシェルに踊らされてしまうんだろう・・・。
とりあえずここにいても埒があかない。
あたしは薄暗い空間から抜け出れるよう、とぼとぼと歩き出した。






「マリナちゃん、君、オレのとっておきの絵を見たくないかい?」
あたしがアルディ邸で見きれないほどある絵画をゆっくり見ていたら、いつの間にか現れたミシェルがあたしの背後に来て、そのまま肩を抱きそっと耳元で囁いてきた。
「え、なにそれ・・?あんたが描いた絵なの?」
あたしがびっくりして聞くと、ミシェルは長い白金髪をサラッと揺らして、青灰色の瞳を長い影が落ちる睫毛で伏せがちにして小さな声で呟いた。
「オレ達のママンが、正気を取り戻した時期に描いた絵で・・。刺激になってはいけないからと譲り受けたものなんだ。あまり大きいものではないから、オレはそれを飾らずに隠し持っていた。・・・落ち着いたから、オレの館に置いたんだ。シャルルも知っているよ。」
あたしは思わずぎゅっと、ミシェルの腕を掴んでしまった。
シャルルとミシェルの長い間の葛藤と苦しみ、あたしは途中で係われなくなってしまったけれど、こうなるまでにどれだけのことがあったのかと思うと、ぎゅっと胸が締め付けられる。
そんなあたしにくすっと笑みを浮かべると、ミシェルがあたしの頬にキスしてきた!
「うぎゃっ、なにすんのよ!」
あたしが頬を押さえて真っ赤になっていると、悪戯が見つかった子どもの様な瞳でミシェルに見つめられた。
「いや、可愛いなと思ってね。・・・あまり気にするな。それより、どうする?見にくるかい?」
態とあたしの気持ちをそらすために振る舞うミシェルに、あたしはぷいと顔を背けて言った。
「あ、あたしはまんが家だもん、とっておきの絵なんて見たいに決まってるじゃない、行くわよ!」
「じゃあ見ておいで、マリナちゃん。」
そう言ったミシェルは、いつもより儚く微笑んだかのように見えた。





ミシェルは仕事があるからと、自分の持ち物である別館に案内してくれ、そのまま行ってしまった。
でもいいわ、おやつがいっぱい入った籐カゴ持たせてくれたから!
ただ不思議なのは、ペンライトも入っていたことだけど・・・。
何かの手違いかしら?
おやつに気を取られそう思ってしまったあたしだったけれど。
あのミシェルに手違いなんてあるわけなかったのだ。
重厚なドアを開き中に入ると、埃臭さもなく綺麗に掃除されている。
きっとここも管理されているのね。
しかしアルディ邸って、いくつ館を所有してるのかしら。考えるのも恐ろしい。
そう思いつつ、籐カゴに入っていた見取り図を見ていると、他にも美術品が収納されているらしく、見ていいと書いてある。
目の前の部屋に入り、飾られていた絵画に近寄った途端。
踏んでいた床がパカッと開き、あたしは「ぎゃーーー!?」と悲鳴を上げながら下に落ちていった。







バレンタイン創作 「ショコラ」 (カーク×エリナ)

「どうもありがとうございました。お帰り気を付けてくださいね。」
奥さんのお誕生日にと、花束を買ってくださった壮年のお客さまがお帰りになったあと、閉店準備になった。

「今日はたくさん配っただね。皆喜んでくれてたみたいで良かっただがね。」
「だったらいいのだけれど・・・。はい、これはマドレーヌさんたちの分。良かったら食べてね。」

そう言ってわたしが手渡したものは、そんなにうまく焼けなかったけど、ガトーショコラ。
今日はバレンタインだから、わたしだけ日本風にしてみたのだ。





「フランスではバレンタインデーの過ごし方は、恋人同士で一緒に食事したりとシンプルなのですってね。日本では日頃の頑張りのご褒美として、自分用に普段買わない高いチョコを買ったり、友達同士で送りあう友チョコもあるのよ。」
「で、今日は来店したお客にショコラを渡していたと。ふーん・・・。」
なんとなく面白くなさそうなカークに、わたしはちょっと困ってしまった。

「うん、でも一番やりたかったのはこれなの。」
わたしがカークに用意したのは、ホットショコラ。
2人でご飯を食べた後、一緒に飲みたかった。
「外は寒いけれど、ここで2人で暖かいショコラを飲めるのが嬉しいの。」

だって、久しぶりにゆっくり過ごせる日なんだもの。
カークは最近ずっと仕事で帰れなかったから。

「ありがとう、美味しいよ。・・・フランスでは今日は男性側から送るというのは知っているよね?」
カークがわたしに差し出してくれたのは、薔薇の柄が綺麗なカードで、中に押し花の栞も挟まれていた。

「エリナは本が好きだから。それと、マッサージしてあげるよ。お菓子作ってたから体凝ってるだろ?」
「え、お仕事終わって疲れてるカークに申し訳ないよ。」
遠慮するわたしの腕を心地よく揉み始めたカークは、くすくすと笑う。
「バレンタインだし、ショコラ美味しかったし。これぐらいお安い御用だよ。」

ショコラの香りがするよ、といいながらマッサージしてくれるカークの肩越しに、窓から雪が降ってるのが見える。
甘い香りに包まれながら、2人でいれるのが嬉しかった。





Fin





女子旅+α

「ね、薫。男どもは何時頃着くって言ってたっけ?」
「さっきメール着てたけど、もうすぐこっちに着くらしいぜ。」
チェックインを済ませ荷物を置いた部屋でテーブルに向かい合って座りながら、あたしたちは目を合わせた。
「せっかくの薫の独身最後の女子旅なのに、美女丸ってば過保護よね!まさか後で合流するなんて思わなかったわよ。急なのによくもう一部屋取れたわよね。」
「この旅館はあたしの母親の馴染みでね、無理はきくんだよ。あんたの旦那も『あいつを放っておくと碌なことにならない』って言って美女丸の誘いに乗ったらしいぜ。」
「・・・・・・・・・・・・。」
あたしがそう告げてやると、思い切り憮然とした顔をする親友・マリナの額にデコピンをくらわしてやった。
「・・っ、い、いったーいっ!ちょっとぉ、薫っ!せっかくのあんたの誕生祝と婚約祝いを兼ねての旅行に誘ってやったあたしの気持ちを袖にする気っ!?」
「ああ、感謝してるよ。なけなしの原稿料貯めてくれてたんだってなぁ。あたしゃあんたの成長具合に涙が出ちまったよ。・・・せっかくの露天風呂だ、あいつらが来る前に入っちまうか。さ、いこうぜ。」
「ええっ、今やっとお茶菓子食べて一息ついたのにぃっ!もうお風呂~?」
マリナの相も変わらずの風呂嫌いに呆れながら、ガタッと立ち上がる。
「おまえさんももう黒須の嫁なんだから、人妻らしくなってみろよ。・・ぶっ、自分で言ってなんだがおまえさんが人妻ねぇ。あ、ダメだツボに入っちまった。」
つい腹抱えて笑い出したあたしに、マリナはぶーっと膨れて風呂の用意を持って先に部屋を出て行ってしまった。
やれやれ、ついあいつをからかう癖が出てしまう。
笑いを納めたあたしは、マリナを追いかけて行った。






「もうね、すっごい騒ぎだったのっ!いろいろな熱気に当てられて、あたし倒れそうになっちゃったわよ!」
「・・・・・だろうね、ここに着いた途端黄色い悲鳴が聞こえてきたから。」
黒須が疲れたように相槌を打ち、隣にいる美女丸をちらっと見た。
「薫・・・。」
深ぁい溜息を吐いてあたしに視線を向けてきた美女丸に、あたしは悠然と答えてやった。
「しょうがないだろ、まさか男湯に行くわけに行かないし。いちお女将に付いてきてもらって説明してもらったんだけど、一瞬遅かったんだよな。」
「女将より先にあんたが入るからいけないんじゃないのよ。イケメンが女湯に入ってきたって阿鼻叫喚になっちゃったんだもの。ホントに傍迷惑なんだから。」
じろっとお茶を飲みながらあたしを見上げるマリナに、あたしはふふんと鼻で笑ってやった。
「その傍迷惑に、風呂で滑って転びそうになったの助けられ、逆上せる前に風呂から出るよう導いてやったのは誰だっけ?大人になったマリナちゃん?」
くいっとマリナの顎を上げて流し目をくれてやると、マリナがぐぐっと詰まった。
「そ、そういう大人の薫さん、お酒飲んでもいいのかしら?体の為にはあんまり飲んじゃいけないんでしょ?.」
苦し紛れに言うマリナに、代わりに美女丸が答える。
「医者から限度量は聞いてある。オレが見張っているし、まだ大丈夫だ。・・そういえばマリナ、おまえは飲まないのか?いつもは飲むわ食うわ呆れるくらいなのに。」
「え、あたしお腹に赤ちゃんいるし。お酒は飲めないでしょ?」

「「「・・・・・・・は?」」」


思わず3人でハモってしまった。


「ちょっ・・と、マリナ!オレ聞いてないよ!?」
目の色が変わった黒須に、マリナが慌てて携帯を出す。
「え、ここ来る前に病院寄って分かったから3人にもメール送ったんだけど・・。あ、送信出来てなかった。」
あーだから誰もそのことに触れてこなかったのね、と暢気な事を言うマリナに、暗雲を背負った黒須が迫っていく。
「・・・マリナ・・・。」
「あ、あの、ごめんね?えーとでも、今わかって良かった・・よ、ね?」
「・・・薫、部屋に戻るか。」
「ああ、そうだな。黒須、マリナ、おめでとさん。」
あたしたちが出て行こうとするのを見て、マリナが縋るように見つめてくるが、あたしは大きくウインクして手を振った。
・・・しかし、わが親友ながら、黒須が気の毒になってくるぜ。
これからあとは、夫婦で喜んでくれよな、お2人さん。




「やれやれ、爆弾投下だったな。さすがはマリナというべきか・・。」
疲れたように言いながら、女将に呼び出され戻ってきた美女丸があたしに手渡してきたのは、ホットワイン。
「どうしたんだ、これ。」
「和矢がおまえにと持ってきてくれたワインを女将に渡して頼んで作ってもらった。湯冷めするなよ。」
一口飲むと香辛料とワインの味が口の中でほわっと広がり、なんだかほっとする。
「・・これ、適当に作るとすごく飲みにくくなるんだ。こいつは結構、うまい・・。」
ふっと軽く口元に笑みを浮かべ、美女丸もホットワインを口に運ぶ。
「和矢直伝のレシピを渡して作ってもらったからな。薫の体に負担にならず飲めるように調べてくれたんだ。あいつはマメな奴だからな。」
あいつだからマリナとうまくやっていけるのさ、と苦笑する美女丸にあたしも頷く。
「赤ん坊か、良かったよな。抱き上げるのが楽しみだよ。」
あの2人が親になるのか。
想像するとくすぐったくなってきてくすくす笑っていると、美女丸があたしに小さな箱を渡してきた。
「満足がいくものを探していたら遅くなってしまったが、・・・婚約指輪だ。」
細いプラチナのアームに高品質のダイヤがソリテールされた、シンプルな指輪。
左手の薬指にぴったり合うのには驚いたが。
「・・ありがと、美女丸。」
大切にするよ。
「オレ達は、オレ達のペースで進んでいこう。これからも、よろしく頼む。」
「こちらこそ。」



マリナ達には、マリナ達の幸せの行方があるように。
あたしたちも手探りで探していけばいいのさ。



しかし、せっかくの女子旅を堪能したかったと少し残念に思うぐらいはいいだろう?





Fin




キスの愛撫

瞼に感じる美女丸の唇。片方が終わると、もう片方。
あたしが軽く瞳を開けると、まつ毛を軽く食む。
美女丸の舌があたしの目の際を舐め、くすぐったさにまた瞳を閉じると、美女丸の唇の端が軽く上がったのが気配でわかる。
軽く頬に唇が触れた後、そのまま耳に辿りつき耳介に舌先が入る。
ぞくっとしたものが背筋を走り、あたしが少し身を竦ませると、逃がさないとでも言うように両腕をあたしの背中に回し、浮かび上がった背骨を撫でていく。
耳では中に入った美女丸の舌の為す水音が響いていた。
くちゅ・・、くちゅ・・。
「び、じょま、も、やめっ・・!」
あたしの喘ぐ声に気を良くしたのか、耳の根元にきつく吸い付き赤い跡を残すと、美女丸の唇はあたしのそれに重ねられた。
軽く触れ、深く入り、優しく撫ぜ、激しく求めて。
お互いの息が熱くなるまで触れて、唇が離れると2人の視線が絡み合った。
「・・・・薫、舌出して。」
その声に導かれるように、薄く開いた唇から少し舌の先を出すと、美女丸の舌と触れ合いまた深く貪られる。
美女丸とするキスが好きだ。
愛されてると、実感できる。

のけ反る首筋に向かって美女丸の唇が顎を伝い鎖骨を噛み、あたしを惑わせる。
あたしのいいところを知り尽くした美女丸は、容赦なくあたしを追い立てる。
でも、あたしだけじゃない。
美女丸の体温が、触れる体躯が、漏れる息が美女丸の熱さを知らしめてくれる。

あたしの体を慮って、大切に丁寧に宝物のように抱く美女丸。
だからあたしも応えてやるよ。
両腕を上げて美女丸の逞しい首に絡めて、瞳を合わし蠱惑的に微笑み顎に軽く噛みつく。
あたしの挑発ににやりと口角を上げ、あたしの胸元に顔を埋めてきた美女丸の頭を抱え込んだ。


この女はオレのものだ。
この男はあたしのもの。
2人の密事は夜灯りに包まれて華を咲かせる。
これからもずっと。



Fin

言霊の魔法 (銀バラリレー創作)

「ねぇ皆、そろそろお茶にしない?今日ね、面白いもの作ってきたのよ。」
ロッジでの勉強会に一区切りついてきたころ、あたしはぐるりと視線を皆に回して言った。
「面白いものって何だよ?」
あたしが持ってきた紙袋をごそごそしていたら、待ちきれないのかヒロシが後ろから覗き込んできた。
「んもう、天吾や人吾みたいなことしないの!大人しく座って待ってなさい!」
あたしが軽く、覗き込むヒロシの顔をぴしゃんと叩くと、横に居た光坂クンがぷっと吹き出していた。
「高天さんってたまに子どもみたいだよね。ユメミがお姉さんみたい。」
「なんだと、このやろっ!」
「うわー、止めてよ、高天さん!」
ヒロシが光坂クンにヘッドロックをかけ始め、光坂クンが悶えている。
こういうところが子どもっぽいっていうのよね・・・。
「うるさい、二人とも。私に言わせれば、どちらも子どもレベルだ。」
瞳を細くしてきっと二人を見据える冷泉寺さんの姿は、いつみても綺麗。
最近は大人の女性のような清華な表情が垣間見えたりして、たまに見惚れてしまうのよね。
「で、ユメミ。面白いものってどんなものなんだ。」
いつもの光景を見て淡い微笑みを浮かべながら、鈴影さんが艶やかな声であたしに促した。
「じゃーん、これでーす。」
紙袋の中から個包装され大量に出てきたのは、
「・・フォーチュンクッキーだね!でも、普通に中華街で売ってるのと感じが違うね。チョコの模様があるよ。」


「そうなのよ、煎餅のような生地じゃなくて、ラング・ド・シャのような生地で作ったの。ちょっと待っててね、お茶入れるから。」
「私も手伝おう。」
「わ、ありがとう、冷泉寺さん。」
あたしたち女性陣がお茶の準備に立つと、男性陣は慣れた手つきでテーブルを片づけてくれた。
お茶の準備が整ったので、皆でテーブルを囲んだ。
「じゃあ、いただきましょうね。」
「おー、頂きます!」
元気一杯のヒロシの声が響いて、ヒロシはさっそく口に放り込んだ。
「あ、ダメだよ高天さん。中に紙が入っているんだから!」
「ふぇ?あ、ホントだ。噛み砕く前で良かったぜ。なんだ、こりゃ。」
慌てて止めた光坂クンが、ヒロシに説明する。
「これはおみくじを入れたクッキーなんだよ。なんて書いてあるの?」
「んーと、『金』?」
「そうよ、『きん』でも『かね』でもいいんだけど、あると嬉しいじゃない?」
あたしがそういうと、冷泉寺さんが呆れたように言った。
「即物的すぎるだろ。私のは・・『紅差し指』、ほう、薬指の雅称か。悪くないな。」
「なんだか響きが綺麗だなと思って。」
「ボクのは、『花衣』?どういう意味?」
光坂クンが首を傾げてあたしを見ようとしたら、鈴影さんが答えてくれた。
「花見に行くときに着る女性の美しい衣装をいうんだ。オレのは『薫風』か。風が木の間や水の上を通り過ぎ、その香りを運んでくるよう、という意味だな。ユメミ、どういう思いでこれを作ったんだ?」
「おみくじだと言いことも悪いことも書かないといけないから、どうせなら幸せそうな言葉にしようかなって。言霊って言葉もあるから、この場ぐらいいい言葉で響いてもいいかなと思ったの。」
「・・オレのは『金』ってなってたじゃねぇか。」
「たまに面白いのもあるわよ。楽しいでしょ?」
「さすがユメミ、少女趣味だねぇ・・・。」
光坂クンがしみじみ呟くと、冷泉寺さんが頷いた。くすくすと鈴影さんは笑いながら、お茶を口に運ぶ。
「何が出てくるか楽しみに食べようじゃないか。言霊が宿るんだろ?」
「いっぱいあるから、たくさん食べてね!」



こうやって皆で和やかに過ごせる時間が続けばいい。
願うだけはいいじゃない。



言霊の魔法   Fin

リクエスト創作 「今でも愛してる」 (和矢×マリナ?)

『ぼくのかぞく

2年2くみ くろす かずみ

ぼくのかぞくは、お父さん、お母さんです。
お母さんは今おなかに赤ちゃんがいます。もう少しで生まれます。
お父さんとお母さんはよくケンカをします。ぼくは2人がりこんしてべつべつにくらすのがイヤだからはらはらしていたのですが、いつのまにかなかなおりしているのでしんぱいしなくていいのかなと思うようになりました。
お父さんは大きくてやさしいです。
お母さんは小さくてよくおこるけれど、ねるまえに自分が作ったおはなしをよんでくれたり、カッコいいかめんライガーをかいてくれたりします。
ぼくはぼくがねたあと、ふたりがきすしているのを知っています。なかが良くてうれしいです。
お父さんはこどもをみるおいしゃさんでいそがしいけど、ぼくとあそんでくれます。
お母さんはまんが家らしいけど、よくわかりません。でも絵がうまいし、たまにへやにこもるのでおしごとしてるのだと思います。
お母さんは小さいのにぼくとチャンバラごっこであそんでくれます。ぼくがズボンに100円きんいつのけんをさしてバスタオルを首のところでせんたくバサミでとめてマントにし、ブロックのはこのフタをたてにすると大わらいして相手してくれます。ときどきお父さんもまざります。
お父さんがお母さんとなかよくするように、ぼくもおなかの赤ちゃんが生まれたらめろめろになります。たぶんいもうとがうまれるようです。かわいがりたいです。
ぼくはぼくのかぞくがなかよくくらしていけたらいいなとおもいます。』



「はーい和実くん、いい作文でしたねぇ。お父さん、後ろで顔を真っ赤にしていますよ。きっと家族を大切にされてるのですね。よくわかりましたよ。」



Fin




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リクエストいただいた咲優さんのお題は、
『和矢を出してもらいたいのです!
和マリでも和シャル(ゴロがイマイチやね)の友情モノでも、どちらでもOK』
でした☆

・・・・・和矢とマリナの子ども、和実くん(ひとみ先生この漢字とか読みがお好きそうなのでオマージュ)が登場で、和矢は最後のみになってしまいました。
咲優ちゃん、こ、これでは・・・ダメ?



リクエスト創作 「掌中の珠」 後編 (宏×冷泉寺)

「久しぶりだな、冷泉寺。えらく綺麗じゃねぇか。」
つかつかとあたしに近づいてきた高天が、そう言いながらあたしの足元に跪いた。
「あ、やっぱり・・・。」
そう呟くと、あたしの両脇の下と両膝裏に手を差し入れてきてひょいと抱き上げてきた。
「な、何をっ・・。おい、高天!」
「おまえさっき飛び蹴りしたとき、左足首痛めただろ。無理してもオレにはわかるぞ。」
「あら、やだヒロシったらお姫様抱っこだなんて。あんたも逞しくなったのねぇ・・・。」
繁々と呟くユメミにげんなりした顔を向けながらも高天はレオンに話しかける。
「おまえ、世話焼きの親戚みたいになってんぞ。レオン、部屋取ってくれてるんだろ?」
「ああ、光坂に頼んであるんだが、どうなんだ?」
「この上に取ってあるよ。あ、高天さん、冷泉寺さんが身に着けてるもの後日返してくれたらいいから。預かってる冷泉寺さんの荷物ももう部屋に運んでおいてもらってるからね。」
「サンキュ。」
「・・・・っておいこら、あたしを無視しておまえら何以心伝心になってんだ!聞いてないぞ、こんなこと!」
「せっかく高天を呼び戻したんだ。おまえの指導医師にも話は通してある。この際だからはっきりと話を進めろ。」
そう言って目を眇めるレオンの傍に笑顔のユメミが寄り添い、光坂がばいばい、とでもいうように手を振る。
「覚えとけよ、高天・・・。」
お膳立てされた現状にぎりぎりと歯軋りするあたしに、高天は苦笑してあたしを抱き直しそのまま歩き出した。
「せっかくゆっくりと二人きりになれるようにしてくれたんだ。不意打ちは気に入らないだろうけどあいつらの気遣いなんだ。ありがたく受け取っておこうぜ。」
でもあんなにきれいに決まった飛び蹴りが見られると思ってなかったぜ、と大笑いする高天の頬を思い切り抓ってやって少し溜飲を下げてやった。


「はい、テーピング終わり。冷泉寺に応急処置教わってたから向こう行っても助かってたんだ。これでいいんだろ?」
氷水で冷やし終えた後に包帯を巻き終わった高天はホテルのソファに座ったあたしを膝立ちの姿勢のまま見上げ確認した。
「ああ、これでいい。・・ありがとう。」
色々不満に思うことはあるが、ここはちゃんと礼は尽くしておく。
「ふーん、これマニキュアか?奇麗な色じゃないか。」
右足の指を少し持ち上げながら見る高天を見て、あたしは呆れを含んだ声で答えた。
「これはペディキュアっていうんだ。まずおまえからマニキュアなんて単語が出てきたことが驚・・きっ、っ、何やってんだ高天!」
「これ、アキがやったのか?なんかムカつくんだけど。・・・オレ以外が触るのは気に入らない。」
足の指の先から指の間を大きな舌を覗かせて舐める高天を振り切ろうとするが、怪我した足が気になって思いきれない。
もしかしたら、怪我していなくても出来ないかもしれないけれど。
「馬鹿っ、こ、れは、ユメミがやったんだ!だから、やめろっ・・!」
「ダメ。怪我したお仕置き。あんまり無理するなよ。」
少しずつ上がる舌と優しく触れる大きな手。
「オレにとって、おまえは宝なんだよ。」
背中に回った手がドレスを下していく。
「髪なんか長くして、男を誘惑して。」
さらっとウィッグが落とされテーブルの上に置かれる。
「立ち回りなんか演じて心配させるし。」
あたしの短い髪に口付けたあと、鎖骨に食いつき赤い跡を残す。
「もうこのまんま離したくねぇよ。」


・・・しょうがない奴だ。
「来い。」
あたしがそういうと、高天は口角を上げてあたしを抱き上げ寝室に連れて行く。
ドレスもウィッグもこの部屋に置いたままで。


いつか伝えてやるよ。
おまえはあたしのたった一人の男だ。




Fin




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リクエスト頂いた珠響さんのお題は、

テーマ、冷泉寺さんの女装(笑)
・ヒロシと婚約中だが双方多忙なため、一向に結婚式の話が進まない。
・しびれを切らしたユメミ&光坂くん、冷泉寺さんをブライダルフェアに連れ出し、まんまとドレス試着させる。
・ミス北高のロングヘアの貴緒ちゃん、ウィッグでも使ってー!!ふふふ!もち、ヘアアーティストは緑の猫くんよ!

でした☆

まさかこのお二人のお話を書くことが出来るとは・・・。
珠響ちゃん、どうもありがとう
すごく楽しかったです♪





リクエスト創作 「掌中の珠」 中編 (宏×冷泉寺)

「ああ、やっぱり冷泉寺さんは肌色が青の性質だから、ウェディングドレスは白が似合うね。さっき着たマーメイドラインもいいけど、やっぱりスレンダーラインかな・・・。」
「じゃあパンプスの高さは5センチがバランスとしてキレイよね。7センチでもいいけど、それだとヒロシもシークレット履いたほうが良くなるしね。」
散々試着させられてぐったりとしたあたしを尻目に光坂とユメミは盛り上がっている。
「・・・おまえたち、いい加減にしろ。自分の親にも言ってあるが、あまり大げさにするつもりはないんだ。こんなことあたしの柄じゃないからな。内輪だけでひっそりと出来ればいいんだよ。」
「え、でも冷泉寺財閥のお嬢様がそういうわけにはいかないんじゃないの?」
「知るか、とっととしてしまえばいいことだ。あたしは跡を継ぐわけじゃないからな。」

ガヤガヤとしたフェア会場とは別室であたしたちはいた。
光坂の上客であるここのオーナーがわざわざ用意してくれた部屋だそうだ。
なので思う存分に自分のしたいように出来る光坂の雰囲気が物々しくて、こいつも仕事の鬼なのだと思う。
プロフェッショナルに敬意を表して言うとおりにしているが、あたしが暴れださないようにユメミにペディキュアさせるところが腹黒いと思う。
女を蹴ったり出来ないからな・・・。
「じゃあ、今着ているドレスでメイクしてみようか。今まで着た中で一番似合っているから。」
とりあえず着せ替えごっこは終わりか、と一息吐いたあたしを見て光坂は苦笑しながらメイクを始めた。


「わぁ、冷泉寺さん綺麗・・・。うふふ、ヒロシより先に見れるなんて嬉しいわ!」
姿見の前に立つあたしを見て、ユメミがうっとりとした笑顔を浮かべている。
インラインワンショルダーの帝国床長さのラベンダー色のウェディングドレスは、ワンショルダーのところにスパンコールが華美にならない程度に付いた布で出来た花が後ろから前に8つ付いており、胸のところがカシュクール風に切り替えがあるスレンダータイプだ。
ロングのウィッグを被せられ、ゆるめに巻いてすっきり下ろしたお姫さまスタイルは、トップにボリュームをつけてあるのでティアラの美しさを一層引き立てている。
さすがプロである光坂のメイクは長所を引き出していて、清楚でありながら垣間見える女らしさを感じさせる。
普段見慣れない自分の姿に戸惑っていると、フェア会場から悲鳴と怒号が聞こえてきた。
「・・何かあったのかな?あ、ちょっと冷泉寺さん!?」
訝しがる光坂の声を後ろに聞きながら、あたしはフェア会場に足を向けた。

「なんで、オレを置いて結婚なんかするんだ、ちくしょうっ・・!」
「私、あなたなんて知りません!いったい誰なんですか、あなた!」
「俺はずっと、おまえを見てきたのにっ!」

なんだあれは、ストーカーか?
女性に襲いかかろうとする男を見て、あたしはそのまま走り寄り飛び蹴りをかましてやった。
今まで大人しくお人形扱いされてた反動だとは思いたくはないが、せいせいしたのは事実だ。
「あの格好で飛び蹴りって・・・。そしてウィッグも乱れてないしパンプスも履いたままって、さすがは冷泉寺さんだ・・・。」
頭を抱えながらも感嘆する光坂とはしゃぐユメミを尻目に、あたしは腰が抜けた様子の女性に手を差し出した。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう、ございます・・。ああっ・・・!」
「・・ちっくしょうっ・・!!」
あたしの後ろを見て瞠目する女性と、あたしに遠くに蹴散らかされ気絶寸前だった男が咆哮をあげて向かってくるのが同時だった。
ある理由で一瞬の判断が遅れてしまったあたしは襲撃を覚悟したけれど、あたしの前を過ぎった影がその男を一本背負いでまたもや遠くに飛ばし、今度こそ男は気絶した。
「・・・あっぶねぇ。本気で蹴ったら殺しちまうもんな。」
「サッカー選手のおまえがやったら確実に死ぬだろう。賢明だったな。」
「・・・ヒロシ、聖樹!んもぅ、来るの遅いわよ!あなたたちがもっと早く来てればこんなことにならなかったのに・・。」
「ボクが手出しする暇なかったけどね・・。お帰り、レオンさん、高天さん。」


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