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リクエスト創作 「水の綾」 (響谷兄妹)

「兄貴、入るぜ。」
あたしはコンコン、と兄貴の書斎のドアを叩いて、返事も聞かずにそのまま扉を開けた。
少し開け放した窓から入ってくる風を受けながら、あたしはくすっと微笑んだ。

「珍しいこともあるものだな。」
最近の兄貴は落ち着く暇もなく忙しいらしく、めったに顔を合わせない。
どうしても読まなければならない本を兄貴が持っているのを知っていたため、ひと言メモを残して借りていたのを返しに来たら、椅子に凭れてうたた寝する兄貴の姿を見た。

人の気配に敏感な兄貴が、あたしが書斎に入ってきたのも気付かないくらいだから、よっぽど寝入っているのだろう。

「このままじゃ風邪引くな・・・。」
大きめのひざ掛けを持ってきて、ふわりと兄貴に掛けてやる。
久しぶりにこんなに近くで見た兄貴は、少し顔色が良くない。
頬に掛かった髪を横に流すためにそっと触れると、心の中に漣が生まれるのが解った。

「・・・水の綾、かな。」

静まり返った水面に、風・魚や蛙の浮沈などで、小さな水のひだが生まれることを表す季語だ。


あたしはこの人に恋をしている。
こんな些細な触れ合いで、何物も受け入れて波紋で応える水で満たされるように、心の中に溢れ返ってくる。


「ん・・・。」
少し身じろぐけれど、あたしが触れても眠っている兄貴に、ほっと溜息が出る。


気付かれてはいけない。
告げることは出来ない。


それでも、水の綾は際限なく心に表れて、あたしはそれを抱えていくのだろう。
切ないけれど、水の綾は優しい波紋で応えてくれるんだ。





Fin



こちらは巽さんの 2014 BD創作 「触れないキス」に、
「巽さんがうたた寝しているバージョンも見てみたいです。」というコメントを咲優さんからいただき書いたものです。
深く眠っている巽さんというのが新鮮な感じで、思い入れを込めて書けました。
リクエスト、という形にしていいのかなと思いましたが、こちらの書庫に入れさせていただきました。
咲優さん、ありがとうございました(*´∇`*)

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2014 巽さんBD創作 「触れないキス」

ある昼下がり、薫と一緒にリビングで過ごしていたとき。
ふと薫を見ると、本を顔に載せたままソファでうたた寝しているのが見えた。

薫は女性にしては長身なので、横になって伸ばした長い脚がソファからはみ出ているのを見て苦笑してしまう。

「まったく・・・。仕方のない奴だ。」

ブランケットを持ってきて体に掛け、顔に載っていた本を除けてやったとき、開け放していた窓から緩やかな風が入ってきた。

その風に乗って、薫の短い癖髪が流れ、形のいい額が露わになる。
僕はそっと顔を近づけ、その額に唇を近づけた。
ギリギリまで近づけるが、決して触れることはしない。
それが僕が決めた、薫と一緒にいる為のルールだからだ。

僕のすべてである薫を、傷付けるわけにはいかない。

ゆっくりと薫の傍から離れ、先程風が入ってきた窓辺に立つ。
外を見ると、風に揺られて小さな音を立てる木々の木霊が聞こえる。

僕もいつか、風になってみたいものだ。
それはどういう感覚なのか、とふと思ってみたりする。

「ん、兄貴、・・・あたし、寝てたのか?」
体を起こし目を擦る薫が、バツが悪そうに僕を見た。

「ああ、気持ち良さそうに寝ていたよ。喉が渇いただろう、お茶を淹れよう。ちょっと待っておいで。」
「え、今日は兄貴の誕生日だろ。あたしが淹れるよ。」
「いいよ。プレゼントももらったしね。」
「は?用意はしてるけど、まだあたし渡してないだろ?」
「それも楽しみにしてるけどね。」
「・・・兄貴の言ってること、たまにわからないときがあるよ。」

不思議そうに言う薫に、僕は微笑む。

「さ、入ったよ、お姫様?ご一緒に過ごしていただけますか?」
「あたしがお姫様かい?またデカいのがいたもんだな!」

そう言って笑う薫は、僕にはいつでも輝いて見えてるんだよ。


薫が不意に見せる隙に、触れないキスをしてしまった僕を許してくれ。
決して、触れることはしないから。





Fin


Category: 2014 BD創作

リクエスト創作 「栲縄」 (美女丸×マリナ)

*こちらは、書庫【創作(美女丸×マリナ)】の世界観ですが、そちらを読まなくても大丈夫だと思います。マリナは美女丸のおうちに間借りしたあと、美女丸と婚約したという設定です。




遠くから響く祭囃子の音を聞きながら、カタカタと下駄を鳴らして歩いていくと、ついっと何かに引っ掛けて転びそうになってしまう。
「きゃっ・・・あれ?」
前につんのめりそうになったのを、大きな手に支えられ、結い上げた頭がトンと固いものに当たる。
「・・・やっぱり草履にするべきだったな。マリナは危なっかしいから。」
耳元に美女丸の吐息が当たり、あたしはドキッとしてしまう。
「ぞ、草履でもいいけど、足袋履かないとダメでしょ?だから今日は下駄にしたんだもん!あ、イカ焼き買いに行ってくる!」
赤くなった顔を見られないために屋台に走るあたしに、後ろから美女丸の声がかかる。
「あまり買いすぎるなよ、オレは子豚を婚約者にするつもりはないぞ。」
う、うるさいバカ美女丸っ、そんなこと大声で言うなっ!

あたしが美女丸のおうちに間借りするようになって、・・・婚約者になって。
未だに落ち着かないのは、あたしだけなのかしら?
あたしが美女丸の傍にいていいのかって、思うときがあるの。

「おいマリナ、イカ焼きのタレをオレの浴衣に付けるな!」
「いったいどれだけ綿飴を買ったら気が済むんだ。」
「林檎飴と苺飴と蜜柑飴、それぐらいにしとけ!」
あーもーうるさい!

口煩い美女丸に負けず、屋台の戦利品に舌鼓を打つあたしに美女丸の大きな溜息が聞こえたけれど、知ったことじゃないもんねーだ、ふふん。
戦利品を粗方お腹に収めたあたしは、さっきからツキツキと痛む足を少し引きずっていた。
「どうした、見せてみろ。」
小川に架かる小橋に凭れたあたしの足元を、美女丸が覗き込む。
「履きなれない下駄履くから、靴擦れ起こしてるな・・。しょうがない。」
そう言うと美女丸は、あたしに大きな背中を向けた。
「乗れ、背負ってやる。」
あたしがおずおずと美女丸の両肩に腕を掛けると、そのまま背負われて視界が高くなる。
「わっ、目線が高くて気持ちいい!」
「オレは重いがな。」
がおっ!
ちょうどそのとき、パーンと夜空に大きく開く花火が見える。
「美女丸、花火よ、綺麗ねぇ!」
「わかったから、耳元で騒ぐな。」
次から次へと咲く光の饗宴に目を奪われていると、美女丸が何かを呟いた。

栲縄(たくなは)の長き命を欲りしくは、絶えずて人を見まく欲りこそ

「万葉集の巫部麻蘇娘子(かむなぎべのまそおとめ)が詠んだものだ。」

ー栲縄のように長く生きていきたいと思うのは、あなたをずっと見ていたいと思うからー

「不思議だな、いつ死んでもいいと思っていたのに。おまえと一緒の時間を過ごすうちに心持ちが変わってしまった。でもこういうのも悪くないと思うんだ。」
おまえを放っておくと、心配でたまらないからな。おちおち死んでられん。

「・・・そうよ。放っておいたらどっかに飛んでっちゃうわよ。」
ポロポロと零れる涙が美女丸の肩にかかるけれど、美女丸は黙って歩き出した。

これからもちゃんと見張っていてね。
その代り、あたしはあんたを幸せにしてあげるから。


Fin



勝手にリクエスト創作にしてしまいましたが、こちらは真秀さんの美女マリイラストに眼福を受けたわたしが「お話書かせてください」と真秀さんにお願いしたのです^^;
真秀さん、いつも美麗イラストありがとうございます(*´∇`*)
栲縄(たくなわ)とは、コウゾの繊維で作った縄のことだそうです。

意趣返し (シャルル×マリナ)

あたしはトコトコと、ミシェルのいる別館に向かっていた。
なんだかよくわからないけど、「こちらに来るように。」とメッセージカードが届いていて、マンガの資料をミシェルにお願いしているあたしは逆らえるはずもなく、大人しく言うことを聞いているのだった。
「同じ敷地内だっていうのに、アルディ家って広すぎよね。歩き回ってるだけで運動になりそうよ。」
ぶつぶつ呟きながら、別館のセキュリティを通り抜け、ミシェルの部屋へと向かう。
コンコン、とノックして返事も待たずに入ってしまったあたしは、扉を開けて硬直した。
お風呂上りであろうミシェルがバズローブを開いたまま一人掛けのソファに座っているのを正面から見てしまい、ショックであたしは貧血を起こしてそのまま後ろへ倒れ込んでしまった。
あたしが猫にされてたとき以来よ、上から下まで生まれたままのミシェル見たのって・・・。


「・・・ミシェルがあたしをからかう手段が、なんであんなに容赦ないの?いくら最近あたしがジルを独り占めしてたからってひどくない?ミシェルはスペインに長期で仕事してていなかったんだから、その間くらいいいじゃないのよ、ねぇ?」
スペインの朝市の写真など、現地に溶け込まないとわからないような情報を纏めてくれたミシェルだけれど、何が気にくわなかったのかセクハラ紛いのことをされてしまった。
大きなソファに濡らしたタオルを額に乗せ寝そべるあたしに、仕事から帰ってきたシャルルはそれは冷たい冷凍光線を向ける。
「ジルに構いすぎるからだよ。ミシェルはジルのことに関しては狭量だからね。身を以て体験したんだから理解出来ただろ。」
「何よぅ、女子会に誘っただけじゃない。それにあたし、ジルとくっつくの好きだもん。」
あたしの幼馴染とお友だち達がパリに来るっていうから、女子会することにしたのよね。
「体は男で心は女性という幼馴染と友だちだね。」
「うん、そう。楽しいわよー。ジルも楽しみにしてたし。ミシェルも参加することで落ち着いたと思ってたんだけどなー。」
「それの意趣返しだな、今回のは。」
呆れたように言葉を零すシャルルに、あたしは首を傾げてしまう。
「エリナも参加するんだけど、カークも心配して来れたら来るって。心配ってなんでかしら?」
「全ての事に対してだね。」
なんで、なんでよ!?
「オレも行けたら行くが・・・。やれやれ、保護者の気分だ。」
きっと保護者の立場のシャルルやミシェルやカークが、むくつけき体躯のお姉さま方に囲まれるんでしょうね・・・。
その様子を想像して苦笑してたら、シャルルに視線を向けられてしまった。
「な、何?」
「ミシェルの裸、見たね?」
「だって、・・・あれは不可抗力でしょ、え、シャルル?」
両脇の下に手を入れられ、そのままシャルルに子どものように抱き上げられたあたしは、じたばたと暴れた。
「記憶を上書きしてあげる。・・・不埒な思考も色々と躾けておかないといけないしね?」

このあと、うん、色々大変だった。
バスルームに連れ込まれて、・・・あんなことやそんなことや、うう。

このとき支払った頑張りのおかげか、女子会は盛況だった。
シャルルとミシェルがそれなりに場を執り成してくれたからね、特にミシェルが。
カークは逞しいお姉さま方におもちゃにされてて可哀想やらおかしいやらで、見かねたエリナが助けに行っていた。
ジルはにこにこしていて、一番落ち着いていた。
なんにせよ、せっかくの集まりだもん、楽しまなくちゃね!



Fin

2014 美馬さんBD創作 「声を聴かせて」

ゴホゴホとくぐもった咳が出る。
体が熱くて、あちこちの筋肉も痛くなっている。
氷枕に載せている頭を少しずらすと、ちょっとだけ冷たくて気持ち良くなる。

今日は夏祭りがある日なのに。
美馬と一緒に花火を見るはずだったのに。

この部屋の窓からも花火は見えるけれど、遠くてつまらない。
人ごみに紛れても、近くで見たかったのに。
せっかく美馬が誘ってくれたのに・・・なぁ。

『しょうがない・・・わよね。』
咽喉からは全然声が出ないし、もうさんざんだわ。
美馬にメールで訳を伝えたら、「お大事にね。」と返事が来たけれど。
遠くから聞こえるド・・ンという音を聞きながら、私はウトウトと熱に浮かされて眠ってしまった。



「花純、具合は・・、ああ、まだ熱が高いね。」
温くなった濡れタオルが冷たいものに替えられ、とても気持ちいい。
ふと目を開けると、大きな掌が私の頬を包み、繊細なものを扱うかのように触れられている。
『美馬・・・?』
これは夢・・?ふわふわしてて何が現実で夢なのか解らないわ。
どちらでもかまわない、美馬が傍に居てくれるのなら。
「声が出ないのなら、無理に出してはいけないよ。唇の動きでも話していることは解るから。」
『喉が、乾いたわ・・。』
本当に口の動きで解るらしい美馬は、私の上半身をそっと抱き上げ後ろにクッションを重ねてくれた。
美馬のさらさらの黒髪が私の頬に触れ、まるで抱きしめられようとしているような体勢にドキッとする。
そのとき美馬の肩越しから覗く窓から、大きく夜空に咲く花火が見えた。
『綺麗・・。』
「ああ、綺麗だね。」
思わず呟いた声なき声を解ってくれた美馬が、優しく背を撫ぜクッションに寄りかからせてくれる。
少しずつ水を飲ませてくれた美馬が、クッションを引き抜きまた氷枕の上に私の頭を載せる。
「もう少し寝ておいで。起きたら汗をかいてるだろうからすぐ着替えが出来るように伝えておくから。」
ぽんぽんと布団の上を叩かれて、また私は瞳を閉じてしまう。
『来年は、一緒に・・・。』
私がそう呟くと、美馬は黒曜石のような瞳を細めて嬉しそうに微笑んだ。
「君と来年の約束が出来て嬉しいよ。早く治して、君の声を聴かせてくれ。」





目覚めたとき、すっかり汗をかいて着替え終わった私がふとベッドの横の机を見ると、色とりどりの金平糖が置かれていた。

これは今日行われる夏祭りで買える金平糖で、秘かな人気がある一品だ。
私はこれがお気に入りで、何かの折に美馬に話した覚えがある。
美馬が買ってきてくれた・・・のよね?さっきもここにいてくれたわよね?
金平糖をひとつ口に含むと、ほのかな甘さにほっとする。



「お誕生日おめでとう、美馬・・。そしてありがとう。」



声が出たことに安堵しながら、次に美馬に会ったらすぐに伝えたい言葉を反芻した。






Fin
Category: 2014 BD創作