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2014 マリナBD創作 「日日是好日」

2014 和矢BD創作 「遥か彼方」 のマリナ視点です。







・・・なんだか、不思議な展開になってしまったわ。
こっそりと、ぽりぽり頭を掻いてみるけれど、現実は変わらないのよね。当たり前なんだけどさ。

今あたしは、和矢のお父さんと差向いに座り、将棋を教えてもらっている。

そもそもの始まりの、お誘いも突然だったのよねぇ・・・。
家の電話がリンリンリン、と鳴ったので出たら(携帯なんて贅沢品は持ってないのよ!)、少し擦れたバリトンのいいお声の和矢のお父さんから、
「近日中に和矢抜きで少し話したい。」
と言われてしまって、あたしは、
「すわ、和矢とのお付き合いに反対されるのかしら!?ま、負けないわよ!」
とそれでも腰が引けつつ、今日こちらにお伺いしたんだけれど。

和矢のおうちの外観からは想像出来ないひっそりとした和室に案内してもらって、美味しいお茶と和菓子をご馳走になったので、あたしは緊張と相まって出してもらった和菓子をいっぱい食べてしまった。
あたしの食べっぷりに、無言で持て成してくれる和矢のお父さんが、さらに無言で次から次へと和菓子を出してくれるという、カオスな状態になったのよ。

熱いお茶を頂いてはふ、と一息吐いてたら、和矢のお父さんが静かに口を開いた。

「マリナさんは、パリで和矢の母・・・マリィの遺体を見つけてくれたんだね。」
「はい、和矢の親友の・・・シャルルのおかげなんですけど。」
あたしが戸惑いながらそう言うと、和矢のお父さんはどこか遠くを見つめていた。

「・・・マリィが、『夢を叶えたいからフランスに一度帰りたい』と言い出したとき。子どもたちは反対したけれど、私は何も言わなかった。マリィが故郷のフランスから日本に来てくれたのは、故郷と夢を大事にする彼女にとってどれだけのことだったか知っていたからだ。」

コクン、とお茶で喉を潤おした和矢のお父さんの視線が、こちらに戻ってきた。
「何も言わない私に反発した和矢が、1人でマリィをフランスへ探しに行き、マリィも和矢に連絡を取っていたのも知っていた。マリィが私に何も言ってこないのも何故なのか解っていた。」

あたしが何も言えずに見つめていると、和矢のお父さんはふ、と微笑んだ。
「いつかマリィが帰る場所は、ここにしかないと・・・お互いに思っているから。家族として過ごせるのはこの場所で、伴侶として迎えてあげれるのは私だけだから。」

さやさやと、風が吹き抜けていく。
「もう、それも・・・出来なくなってしまったけれど。」

寂しい、恋しい。

和矢とそっくりの理知的な黒い瞳が、そう告げている気がした。


「・・・マリナさんは、夢を叶えるために早く家を出たんだろう?」
あたしを見つめる和矢のお父さんの瞳が、昏くなったように思えた。
「あたしの夢は・・・、全然うまくいかないことばっかりなんですけど、それでもそれをどう受け止めていくかを探すのがあたし自身なんだと思ってます。たまにいいこともあるし、どうしようもないこともある。その中であたしが出来ることをやるだけです。」

それに、とあたしは頬を指でポリポリ掻く。
「和矢が、あたしの両親に会ってくれて、『オレが一緒に付いているのでマリナを信じて見守ってあげて欲しい。』って言ってくれたんです。始め頑なだったうちの父親も少し譲歩してくれるようになりました。」
あたしがそう言うと、和矢のお父さんの瞳の昏さが払拭され、ふぅと小さな溜息が漏れた。
「・・・生前、マリィは禅に興味を持っていて、好きな言葉は『日日是好日』だった。マリナさんが今言った言葉がそうだよ。」
にちにちこ・・・れ・・・、うう、舌噛みそう。
「もう少し時間があるなら、・・・一緒に将棋をしてみないか?偶の休みにここで、マリィとしていたんだ。」
「・・・全然わからないので、教えてください。」
和矢のお父さんの雰囲気が柔らかくなり、とても懐かしそうにそう言われたので、あたしは受けることにした。


とっても解りやすく和矢のお父さんは教えてくれるのだけど、将棋って難しい・・・。
あたしは心の中でうんうんと唸りながら、次の一手を考えていた。
そのとき、扉付近からかたん、と音がした。
ふと顔を上げたら、戸惑った表情の和矢がいた。

「和矢、おかえりなさい!今ね、将棋を教えてもらってたんだけど・・・。難しいわねぇ。」

頭痛くなっちゃいそうよ、とあたしが言うと、和矢のお父さんがポンとあたしの頭に手を置く。

「すまんな、和矢。少しマリナさんと話がしたくて、連れ出してしまった。・・・マリナさん、今度皆で食事に行こう。そんなに畏まった所ではない店をいくつか知ってるから、気兼ねせず来たらいい。」
あたしにそう言って和矢のお父さんは、静かに部屋を出て行った。




「将棋って初めてしたんだけど、面白いわ。ねぇ和矢、あんたも出来るんでしょ?もう少し教えて欲しいわ。」
傍に来た和矢を見上げてそう言うと、和矢は眩しげにあたしを見た。

「・・・どうして、ここに?」
「さっきおじさんが言った通り、話がしたいから、とここに連れてきてもらったの。・・・少し話をしてから、将棋をしよう、と誘われたから教えてもらってた。」

あたしが言葉を言い終える前に、和矢があたしの手首を掴んで引っ張り、逞しくて大きな身体にぎゅっと抱きしめられる。
和矢の頭に出来るだけあたしの短い腕を伸ばして、そのままあたしの肩に押し付けた。


きっとここは、和矢の家族にとって大切な場所なんだと思う。
あたしが出来るのは、黙って抱きしめてここにいるだけ。
あたしを抱きしめる腕の強さが、あたしにそのことを告げていた。





Fin






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Category: 2014 BD創作

2014 和矢BD創作 「遥か彼方」

ジリリーン、ジリリーンと通知を知らせる音が鳴るのに、マリナが出ない。
おかしいな、今日は家にいると聞いていたのに。
「あいつ、携帯持ってないしな・・・。」
次の誕生日に、プレゼントしてやろうかと思うが、他に渡したいものがあるので少し悩む。
「しょうがない、帰るか。」
大学の構内を歩いていると、ゼミで良く顔を合わす連中とすれ違う。
「よ、黒須。もう帰るのか?なんだったら飲みに行かないか。」
「いや、今日は帰るよ。また誘ってくれ。」
「愛しの彼女の所にでも行くのかよ?」
その中の一人にそう話を向けられたが、さらっと躱す。
「どうかな・・・、じゃ、またな。」

オレにマリナという彼女がいることは公言しているので、コンパなどの飲み会の誘いは来ても断っている。
だけど、オレ達の付き合いにあまり口を出されるのは好きじゃない。
いちいち口に出して言ってはいないけれども。

一緒に話したり、食事したり、どこかに行ったり、抱き合ったり。
マリナと過ごしているときは、前より素の自分を出しているように思う。
響谷は、「黒須が留まることが出来るのはマリナだけだ。」と言ったことがあるというが、・・・そう、なのかもしれない。

なぜ、彼女なのか。
そう思うときもあるが、考えて解るものでもないとも思う。



自宅に帰ると、見慣れたローヒールの靴がある。
マリナ・・・うちに来ているのか?
不思議に思いながらあちこち見て回るが、いつもの小さい身体を見ることはない。
パチ・・・ン、パチン。
普段あまり使わない、誂えた和室がうちにはあり、そこから音が聞こえた。
そっと扉を開け、中を覗き見ると。
そこには、親父と将棋を打つマリナの姿があった。

オレは目を見開いていた。
遥か彼方、遠い昔。
まだ母がここにいたとき、偶にゆっくり出来る親父の相手を、母が静かに微笑んでする光景と同じだったからだ。
親父とマリナは挨拶くらいで、それほど面識はなかったはず。
だけど不思議と、そこにはお互いの存在を溶け込め合う雰囲気があった。
カタン、と音がしたのに気付いたのだろう、顔を上げたマリナと目が合った。

「和矢、おかえりなさい!今ね、将棋を教えてもらってたんだけど・・・。難しいわねぇ。」
頭痛くなっちゃいそうよ、とため息を付くマリナの頭に手を載せ、親父がそのまま立ち上がる。
「すまんな、和矢。少しマリナさんと話がしたくて、連れ出してしまった。・・・マリナさん、今度皆で食事に行こう。そんなに畏まった所ではない店をいくつか知ってるから、気兼ねせず来たらいい。」
親父はそう言って、静かに出て行ってしまう。
「将棋って初めてしたんだけど、面白いわ。ねぇ和矢、あんたも出来るんでしょ?もう少し教えて欲しいわ。」
親父が座っていたところにオレが佇むと、マリナがオレを見上げてそう言う。
「・・・どうして、ここに?」
「さっきおじさんが言った通り、話がしたいから、とここに連れてきてもらったの。・・・少し話をしてから、将棋をしよう、と誘われたから教えてもらってた。」
マリナが言葉を言い終える前に、オレはマリナの手首を掴んで引っ張り、小さな身体を自分の中に閉じ込める。
ぎゅ、とオレにしがみ付いてきたマリナは、小さな手をオレの後頭部に回して自分の肩にそっと押し付けた。


ここは、家族が穏やかに過ごしていた時間を思い出す場所。
もう還ることはない、遥か彼方。
そこに、新しい風が吹いたように思う。
何も言わず、受け止めてくれる彼女。

こういうところが、オレが彼女でなければならないと思うのだ。



Fin




次のマリナBD創作で、マリナ視点を書きたいと思います。





Category: 2014 BD創作

2014 冷泉寺さんBD創作 「シェリー」

パタパタパタ、と使い慣らしたスニーカーの音を鳴らして、小走りに走る。
「・・・は、着いた。」
あたしの勤務先である病院への通勤道から少し外れた、小さな公園の入り口で、あたしは少し切れた息を整えた。
これぐらいで息が乱れるなんて、情けないと思う。
・・・あいつを待たせてるからとか、関係ないから。
そう思いながら滑り台やブランコのある広場を通り抜けると、端のベンチに見慣れた男が腕組みして顔を伏せていた。


「高天、寝てるのか?」
ベンチに近付きあたしがそう声を掛けると、高天が顔を上げニッと笑う。
「よ、久しぶり。ちゃんと起きてるよ。」
同じ時間を長く過ごした高校生のときより精悍さが増したけれど、月日が経って落ち着いた雰囲気になった高天のそういう顔は、嫌味がなく気負いがない。
だからあたしも、気になっていることが素直に言えた。
「悪いな、高天・・・。せっかく食事に誘ってくれてたのに。明日ドイツに戻るんだろう?」
「仕事仲間が急病になった代わりでこれから出勤なんだろ?しょうがないさ。また今度行けたらいいよ。」
高天はそう言いながら、あたしが座った場所の反対側に置いてある袋をがさがさといわせている。

「ん、これ食えよ。」
そう言って高天が差し出したのは、半分に分けた焼き芋。
「どこで買ったんだ、これ。」
あたしが呆れて言うと、新聞に包んだそれを手に握らされる。
「おまえ待ってる間に焼き芋屋が通りかかるのが見えたから買ったんだ。おまえこれからバタバタになるんだからさ、食えるときに食っとけよ。体保たないから。」
ついでとばかりにホットのお茶まで用意されてて、なんだか毒気が抜かれてしまった。


「・・・甘いな。」
口に入れると温かい口どけが広がる。
自然な甘さが、肩に入れていた強張りを解かせてくれるようだ。
「喉詰めるなよ。」
あっという間に自分の分を平らげた高天が、お茶を飲みながらあたしを見る。
「おまえじゃあるまいし。」
なんとか食べ終えたあたしがフン、と言い放つが気にした様子もなく、さらにあたしの手にポンと小さな箱が置かれる。
「今しか渡せなさそうだからさ、誕生日プレゼント。アキに教えてもらった店で選んだんだ。またあとで見てくれよ。」
「・・・あとでいいのか?」
箱を持ってあたしがそう言うと、高天が少し顔を逸らした。
「・・・恥ずかしいだろっ。」
逸らした頬が赤くなってるように見える高天は、自分の左手をあたしの右手に絡めて、小さな声で言う。


「誕生日、おめでとう。」


「・・・ありがとう。」


あたしたちはそのまま、時間が許す限りそうしていた。
ささやかだけれど、・・・その時間があたしは嬉しかった。


高天のくれたプレゼントは、スタージュエリーのトパーズのペンダント。
オレンジの色味が強いシェリーカラーの石が付いたそれは、白衣の下で輝いている。




Fin
Category: 2014 BD創作

2014 ミーシャBD創作 「雪解け水」

「・・・あの、ミーシャ?」
オレの腕の中でごそごそと落ち着かなく動く清香に、オレはん、何?と答える。
「これはいったい、何の苦行なのかしら・・・。」
オレの顎に掛かる清香のほわほわとした髪の中の旋毛に、そのまま顎を落とす。
「清香がオレの誕生日プレゼント何がいい?と聞くから、要望を叶えてもらってるんだけど?」


ここは清香の部屋で、オレたちは炬燵に座ってテレビを見ている。
いつもと違うのは、オレの足の間に清香を前に向いて座らせ、オレが後ろから抱え込んでいることだ。
「緊張するんだけど・・・。汗くさくない・・・?」
前を向いた清香の頬が赤いのがよく見えて、オレはふっと笑ってしまう。
恋人同士になる前はオレの前だと緊張するからと人並みだったのんびりさも、少しゆっくりになってきた。
オレは清香のペースはゆっくりでも気にならないし、オレに慣れてきてくれたかと思うと嬉しい。
「大丈夫だよ。あ、蜜柑向いてくれる?清香も食べなよ。」
清香がゆっくりと籠に盛られた蜜柑を手に取り、皮と白い筋もキレイに取って手渡してくれる。
オレはそれを半分に割り、清香に渡す。
「これ甘いね・・・。」
一つ一つを丁寧に食べる清香が、蜜柑の甘さにほっと一息吐く。



心を閉ざして、復讐だけを思って生きてきた7年間。
心の中と現実のズレに心も体も疲弊していた。
それでも悲願をやり遂げたとき、終わった後は心を閉ざして虚空を見ていた。
そんなオレのことを掬い上げてくれた清香。
清香の描き上げた父と母の水彩画を見たとき、自分が受けていた愛を、そしてどれだけ自分が愛していたかを思い出せた。
それからも何も言わず寄り添ってくれた清香に、オレは安寧の地を見つけることが出来た。




今は、生きてきて良かったと思えるんだ。






「・・・ミーシャ、ちょっとここに座って・・・。」
怒ってむくれた顔の清香に、パンパンと向かい合って座るように促される。
「もうどうしようかと本当に困ったんだから・・・。」


どうもオレは腕の中にいた清香に凭れたまま眠ってしまったらしく、潰れてギブ寸前の清香は何とか耐えていたけれど、トイレに行きたくなり自力で這い出して、どうやら這う這うの体だったらしい。


「・・・もうもう、こんなのやらないからっ・・・!ミーシャ、聞いてるの?」
「ごめん、ごめんって・・・。」


オレは謝りながらも、それは困るな、と思っていた。






Fin

Category: 2014 BD創作

2014 花純BD創作 「甘い香り」

終了の音を立てたオーブンから中身を取り出すと、焼き立てのお菓子の甘い香りが厨房の中の空気を満たす。
焼き上げたクッキーを金網に載せていたら、私の背後からバリトンの声が響く。

「何をやっているかと思ったら、こんなに大量に作ってお店でも開くつもりかい?」

開いたドアに手を掛け、しげしげと厨房の中を見渡す美馬に、私はまさか、と返す。

「これはね、・・・私がお世話になった英語教室のバザーに出すの。先生がご高齢で今年度でお辞めになるのだけど、娘さんが跡を継がれるの。だけど落ち着くまでこれまでの行事が出来るかわからないから、今回は大掛かりにするのですって。」

マドレーヌにフィナンシェ、カップケーキにパウンドケーキ、型取りクッキー、ラングドシャ。
久しぶりに作ったけれど、なんとか失敗せずに出来てほっとした。

「何か、手伝おうか?」
「いいわよ、別に・・・って言いたいけど、冷めたのからラッピングしていきたいのよね。搬入に行く時間ギリギリになりそうだし・・・。悪いけど、そこの袋にカップケーキ入れてもらえる?」
「いいよ。」
そう言って美馬は厨房の中に入り、冷めたお菓子とラッピング用品を置いたテーブルについて袋詰めしてくれるのだけれど。

「・・・手早いわね。おまけに上手だし。」
リボンを飾り結びにしたり、色型紙で花や動物を切り抜いてみたりと・・・美馬、器用ね!
「色々もらうことが多いから、見慣れてるんだよ。」
「成程ね、モテるっていいわよね。」
「・・・妬いてるの?声に棘があるようだけど?」
「何言ってるの、気のせいよ?今はね、そんな話はいいの!まだまだいっぱいあるんだから。」


そんな話をしながらも手は動かしていたから、なんとか時間に間に合うように準備は終わった。
ただ悔しいのは、美馬がやってくれたものの方がセンスある売り物になっていたこと。
こんなところまでハイスペックなんて、と思ってしまうわ。


「・・・美馬、お礼にお茶入れるわ。良かったらこれ食べない?」
そっと冷蔵庫から小さな箱を取り出しながら美馬に問うと、にっこりと微笑まれる。
「いいね、頂こうか。」


お庭の景色が良く見える部屋に移動し、向き合ってテーブルに座りお茶を飲む。
ジノリのお皿の上には、生クリームを添えたザッハトルテ。
先程の箱の中に入っていたもの。

「・・・美味しいよ。」
ケーキを全部食べたあと、静かに美馬が言う。

「義母さんから、花純はザッハトルテを誕生日ケーキとしていつも作って食べてたというのは聞いてる。こうして一緒に食べれて嬉しいよ。」
「お義父さんがわざわざ誕生日パーティを開いてくれるって仰ってくれて、美馬家のシェフが腕を振るってくれるのは解っているけれど、その前に食べ慣れた味が食べたかったのよ。一緒に食べてくれる人がいて良かったわ。」


美馬と一緒に食べれて良かった。
私にとって、大切な人とこのケーキを食べるのは特別なの。

美馬には絶対に言うつもりはないけれど。
こんな気持ちを感じて迎える誕生日もいいと思うわ。

でもそれは、あなたに気付かれたくないの。



Fin


Category: 2014 BD創作